能登半島地震(2024年1月1日)と奥能登豪雨(同年9月21日)で連続して被災し、全戸が避難を強いられた集落がある。

 石川県珠洲市の真浦町。地震の前には22軒が住んでいた。

真浦町(国土地理院地図より)

 道路が通れなくなったわけではない。幹線の国道249号が貫いており、地震後も半月ほどでアクセスできるようになった。ところが、水道も、地上波のテレビも、インターネットも途絶して、被災から1年以上が経過した今も復旧していない。「目と鼻の先の輪島市ではライフラインが復旧しているのに、どうしてこちらだけ……」。住民はため息混じりに漏らす。

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「市境の壁」はそんなに高いのか――。奥能登豪雨の前と後では激変したので、今回はまず豪雨の発生前までの状況を説明したい。

埋もれた珠洲市側の逢坂トンネルの近くでは、隆起海岸の上に迂回道路を建設する工事が行われていた(奥能登豪雨前に撮影) ©葉上 太郎

映画のロケ地にもなった、絶景の集落

 能登半島は日本海の荒波が打ちつける「外浦」と、穏やかな富山湾に面した「内浦」に分けられる。外浦は急峻な山が海岸に迫る地形で、その真っ只中にある真浦町は絶景の集落だ。

 特に美しいのは夕方で、赤々とした夕陽が海岸線に沈む。

真浦町の海に夕陽が沈む ©葉上 太郎

 近くの「垂水(たるみ)の滝」では、白糸のような水流が海に落ちる。

 その少し先には手掘りのトンネルがある。かつて「能登の親不知」と呼ばれた交通の難所だ。ここでは1957年公開の東宝映画『忘却の花びら』のロケが行われ、主人公(小泉博)とヒロイン(司葉子)がキスをしたことから、「せっぷんとんねる」と有名になった。

「せっぷんとんねる」(奥能登豪雨前に撮影) ©葉上 太郎

 厳しい冬にも見どころがある。「垂水の滝」は強い季節風に吹き上げられて宙に舞い、海岸には風物詩の「波の花」が打ち寄せる。

「いいところでした」。出会った住民は間違いなく、こう胸を張った。

最初の揺れからすぐだった

 だが、2024年1月1日--。

「最初の揺れは、そこまでデカくありませんでした」

 真浦町の区長、南逸郎さん(85)が振り返る。午後4時6分のことだ。

 それから4分後の午後4時10分、立っていることもできないほどの揺れに襲われた。

「家が倒れるかと思いました」。それでも持ちこたえたのは「地盤が硬かった」からだと南さんは考えている。しかし、家具が倒れたり、戸が開かなくなったりして、とても屋内にいられたものではなかった。