植物間のコミュニケーションに衝撃を受けて

上橋 私、生態学やら何やらに興味があると言いつつ、実は数学が苦手で、数学どころか、小学生レベルの割り算の暗算も自信がないレベルなんです。理科系は超ダメダメ人間です。それでも、ありがたいことに、そんな私でも面白く読める本に時々出会うのですが、そのひとつが髙林先生の『虫と草木のネットワーク』でした。

髙林 ありがとうございます。私がその本を出版したのは2007年ですが、上橋先生はもっと前から植物間のコミュニケーションに興味をお持ちだったんですよね?

上橋 そうですね、先生の『虫と草木のネットワーク』の中で、トーキング・プラント説が最初に盛り上がったのは1983~1985年頃と書いてありましたので、多分、20代前半の頃だと思いますが、植物同士が会話しているかもしれないという説に、それはすごい! と、興奮したのです。

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髙林 1980年代中頃ですね。『サイエンス』をはじめとする学術誌で、植物間コミュニケーションに関する論文が立て続けに3つ発表されました。

上橋 それです、それです。それが本当なら、いまこのときも、私たちが思っているよりも、はるかに様々なものが、様々な形でコミュニケーションをし、ネットワークを作って生きているのかもしれない、と思って、わくわくしたのです。人間が感知できていないこの世界の姿を垣間見たような気がして。でも、その後パタッと情報がなくなってしまって……。

髙林 発表された論文について、イギリス人研究者が「実験の条件などが良くないので、植物間のコミュニケーションとは一義的に言えない」という「あえて批判する」という立場の論文を出したんです。そのせいかどうか、この研究は一時下火になってしまった。

上橋 そうだったのですね。私もその後、「トーキング・プラント」については忘れてしまっていたのですが、随分後になって髙林先生のご著書を読み、「植物間コミュニケーション」が現在は実証されていることを知って、衝撃を受けました。

 髙林先生は、なぜ、一度下火になってしまった研究をおやりになろうと思われたのですか?