Mの隠し切れないカネへの執着心

 Mは杯を重ねている。顔色ひとつ変えないから強いのだろう。しかし、つき合わされた両脇のふたりの道楽息子はすでにテーブルに突っ伏している。記者はそれ以上酒には口をつけなかったが、まだ意識がある日本人をMは気に入った様子で、帰そうとはしない。やはり気になるのはカネだ。

「仕事をすれば、俺の取り分はどうなる?」と単刀直入に聞く。

「客が支払った額の60%が女の子。30%が私や現地のエージェント。10%は君たちのような日本のエージェントに支払われる。悪くない話でしょ? 日本人を買いたい男はこの国にまだ大勢いるし。私に稼がせてくれれば、君に損はさせない。どんどんこっちに送ってくれるか? ウチはまだたくさん空き部屋があるから」

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 Mは突如、名案を思いついたとばかりこんな提案をしてきた。

「あなたに日本の事務所を持たせてもいい。要は日本支社だね。それなら風俗以外のビジネスもできる。お金はすべて私が持つし、必要経費はすべて出します。あなたは一円も出さなくていい。日本で女の子たちを見つけて、送ってくれるだけでいい。そうすればあなたは一生遊んで暮らせる」

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 Mの言葉には妙に説得力があり、人をその気にさせる話術を持ち合わせていた。カネやビジネスの話になると、それまで穏やかだった表情や口調が一変、ピリッとした空気を醸し出す。隠し切れないカネへの執着心を感じざるを得なかった。

 今後は誰とどうやってビジネスを進めればいいのかと尋ねると、「すべてウィーチャットだ」と言った。記者はすでにアプリをインストールしていたので、アカウントを見せると、Mは大きく頷いて「後日、部下から連絡させる」と約束した。

「部下とは、昼間オフィスにいた人たち?」と水を向けると、Mは即座に否定した。

「彼らは不動産管理を任せているただの社員だよ」

 さながら、日本の反社会勢力が身分を隠してカネを得るためにつくる「フロント企業」だろう。これ以上の質問は身に危険が及ぶと思い詮索するのをやめた。風俗まわりの雑務は、両脇で寝息を立てている道楽息子らのような若者が担っているのかもしれない。