1974年作品(101分)/東映/2800円(税抜)/レンタルあり

 今回は『仁義なき戦い 頂上作戦』を取り上げる。実際に広島で起きたヤクザの抗争を描いたシリーズの第四作だ。

 が、本稿で注目するのは物語のメインとなる、主人公・広能(菅原文太)と山守(金子信雄)との対立ではない。とある小さな組の話だ。

 抗争は広島全土に広がり、岡島(小池朝雄)の率いる第三勢力・義西会は広能サイドに加わる。岡島から資金援助を受け、弱小の川田組もその陣営に参じることになった。

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 今回は組長の川田(三上真一郎)と若い組員・野崎弘(小倉一郎)に焦点を当てたい。

 組同士が共同戦線を張る中で野崎は義西会の若頭・藤田(松方弘樹)と親交を深めていく。だが、岡島が山守に暗殺されたことで状況が変わる。藤田は岡島の仇を討つため抗争を続けるが、川田は藤田の応援要請に応えようとしない。

「藤田さんには義理がありますけん――」そう言う野崎に、川田は野球中継を見ながら言い放つ。「スタンドみてみぃ、義西会のバッジばっかりじゃ!」実は川田組は広島市民球場での野球賭博をシノギの柱にしていたが、そのシマを義西会に奪われつつあり、川田は忌々しく思っていたのだ。

 そして、川田は野崎に藤田殺害をけしかけ、野崎は言われるままに実行してしまう。

 いかにも生真面目で純朴そうな小倉と、蛇のような冷たくヌメリ気のある眼差しで迫ってくる三上。両者の対照的な芝居が、「老獪な大人にいいように騙されていく若者」という構図を浮き彫りにする。

 注目は、野崎を藤田殺害に向かわせた、川田のセリフだ。「こんながやってくれると、助かるんじゃがのう」「アレさえおらなんだらよ、義西会も馬のクソと同じじゃ」「のう弘。こんなもここらで男にならんと、もう舞台は回って来んど」――一言も「藤田を殺せ」と明言していないのである。言葉巧みに野崎がそうせざるを得ない方へ向かわせている。決定的な言質を与えていないため、川田はいざという時「野崎が勝手にそう思っただけ」と言い逃れできるのだ。どこまでも狡猾である。

 純朴な若者を精神的に追いつめ、「チャンス」を与え、実行に移させ、事が露見すると「指示を曲解した」と若者に全て押しつけて自らは逃げるボス――という構図は、いま問題になっている日大アメフト部そのものに映る。これは日大だけに限ったことではないだろう。大なり小なり、似通ったことはこの国のあちこちで行われている。ただ表立っていないだけのことだ。

 戦中派の作り手たちは、戦時中の若者たちの悲劇を本シリーズに仮託していた。が、残念なことに、今なお決してそれは他人事ではない。