放送中のNHKの大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』の主人公で江戸時代の出版人・蔦屋重三郎(蔦重)は、幼くして親と生き別れた。そのため、吉原遊郭の引手茶屋・駿河屋の養子に入り、育てられた生い立ちを持つ。ドラマでは、蔦重を横浜流星、駿河屋の主人・市右衛門を高橋克実、そしてその妻で女将のふじを飯島直子が演じている。
大河ドラマに“眉なし”で登場し話題に
江戸時代の既婚女性は「引眉」といって眉毛を剃り落とすのがならわしだった。『べらぼう』でもこれを再現するため、飯島のほか同じく吉原の女将を演じる水野美紀や安達祐実らも“眉なしメイク”で出演している。視聴者のなかには当初、誰が演じているのかすぐにわからなかった人も結構いたのではないか。とくにふじは物静かな女性として描かれ、出番もセリフも少ないだけに、筆者もしばらく飯島だと気づかなかった。
とはいえ、初回より気になる存在ではあった。最初に登場したのは第1回で、蔦重が市右衛門の逆鱗に触れ、店の2階から階段に突き落とされる場面だった。ふじはこのとき、階段下のすぐ脇の部屋で饅頭を口にくわえながらソロバンをはじいていた。転がり落ちた蔦重に気づいて一瞬目をやるも、すぐにまたソロバンに戻る。それが第3回では、蔦重をまたもや階段に突き飛ばそうとした市右衛門のほうが転げ落ち、例によって菓子をくわえながら書き物をしていたふじは、夫の異変に気づくや慌てて駆け寄るのだった。
毎回見ていると、こうした展開がまるでコントのように思え、ニヤリとさせられる。そんなふじの役づくりについて飯島は、《駿河屋で事件が起こるとき、必ずおやつを頬張っているので、頬張りながら「ん?」と気づくしぐさのバリエーションをいくつも考えました(笑)》と語っている(NHK大河ドラマ・ガイド『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~ 前編』NHK出版、2024年)。