──どういうことでしょう。
北條 別々に暮らす両親が、それぞれ自分の側に私を取り込もうと奪い合う感じです。父が「これを買ってやるから泊まりに来い」と言うと、母が「これをあげるから取りにおいで」と機嫌をとってくる、という繰り返しで。私も最初はどちらにもいい顔をしていましたが、だんだん疲れてしまって。この状況から早く脱出したくて、卒業後はすぐ自分で稼いで自立しようと思ったんです。
──就職はスムーズに決まりましたか?
北條 盲学校卒業までには決まりませんでした。事務職に就きたかったんですけど、当時の私は資格もなく家にPCもなかったので、卒業後に障害者職業能力開発校に通いました。そこで「ビジネスマナーとしてメイクも大切」という話を聞いたんです。
ただそのとき「視覚障害がある人は自分の顔が見づらいから、メイクはできなくても仕方ないよね」という雰囲気を感じて、気持ちがすごくひっかかったんですよ。
「メイク動画は目が見える人向けなので、何をやっているかわからなくて」
──「外見のハンディを受け入れろ」と言われているようです。
北條 そうなんです、小さい頃から自分だけできないことが嫌だったのに、大人になっても言われるのか……と。それで、19歳頃から本格的にメイクを始めました。
──メイクはどうやって練習したんですか?
北條 最初はYouTubeです。でもメイク動画は目が見える人向けなので、実演しながら「ここにこうしましょう」と曖昧に言われても、私には何をやっているかわからなくて。
──動画は「見ればわかる」ことが前提になっていますよね。
北條 なので、曖昧な指示を自分なりに解釈して「たぶんこういうことだろう」と試行錯誤していました。でも、ファンデーションで大失敗したこともあって。