大阪市で開催中のアジア映画の祭典「第20回大阪アジアン映画祭(OAFF)」で21日、『朝の海、カモメは』が上映された。本作は韓国の“限界漁村”を舞台にしたダークな笑いのこもった人間ドラマ。特に目を引く観光資源もない地方の厳しい状況や、外国人花嫁、日本にも共通する社会の“病理”を抉り、昨年の釜山国際映画祭で絶賛された作品だ。上映後登壇したパク・イウン監督が語った。

パク・イウン監督©文藝春秋

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元ベトナム戦争兵士とベトナム人花嫁

 この日登壇したパク・イウン監督の前作『ブルドーザー少女』(2021)は、日本では2022年のOAFFで上映された後、特集上映で限定的に劇場公開された。少女がブルドーザーに乗って社会悪と戦うという奇想天外でパワフルな作風が話題になった(配信中)。

 前作も韓国社会の貧困がテーマだったが、本作は韓国のさびれた漁村が舞台。限界集落と言っていい村の寂寥として沈滞した空気が重い。パク監督は語る。
「今回のシナリオは実は前作より先に書いていたんです。どちらも貧困をテーマにしていますが、前作は貧困に対する個人の抵抗に焦点を当てました。今回は貧困にあえぐ集落で生きる人々の生きざまに焦点を当てたわけです」

 ベトナム戦争に出征した元兵士のヨングク爺さんは、近所のよしみで雇っていたヨンスがうつ病気味なのに同情している。そこでヨンスの失踪と保険金詐欺を手助けすることを決意、海上でヨンスが船から落ちたことを偽装する。ところがこれが思わぬ大騒動に発展。警察とともに漁師たちが操業を中止して捜索に加わったが、次第に村の内部で対立が先鋭化。転落が嘘であるとは知らないヨンスの母親とベトナム人妻ヨンランは取り乱し、さらには保険金を受け取ることになるヨンランへの妬みや差別が露わになっていく。

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『朝の海、カモメは』

「もちろんこれはフィクションです。事実を言えば、この映画が描いたような保険金詐欺が韓国で成功することは稀です(笑)」

 生活が厳しい地方の漁村や農村に残る若い女性が少なく、若い男性の結婚相手が不足していることは日本も韓国も変わりない。そんなときに外国から花嫁を迎えるのも同じで、本作ではベトナム人妻が登場するが、境遇の不安定さや差別、冷ややかな行政の対応など、彼女が抱えている問題もまた他人ごとではあるまい。

「就労や結婚のため、韓国には多くの外国人が来ています。受け入れの制度はかなり整ってきているのですが、一方で韓国の人々がそれを受け入れる気持ちのほうは追いついていないという感じがします」