満期で出所した時には、もう50歳を過ぎていた。
「断酒する」とは言わなかった理由
私は、平沼さんに尋ねる。住まいと仕事を紹介するうえで、確認しておかなければならないことがあったのだ。
「受け入れてくれるかもしれないところなんですが、そこは、もちろん禁酒です。その点、大丈夫ですか。まあ、平沼さんは、もう半年も、いや、その前の服役中もですから、合計3年半近く、アルコールを断ってるんですもんね。大丈夫ですよね」
「いや、ムショにいる時のことは、カウントしちゃいけないよ。まあ正味、5カ月半だな。俺な、一生断酒しようなんて思わないようにしてんだ。思っただけで、プレッシャーかかって、俺みたいに意志の弱いやつは、すぐにこけちゃう。だから、きょう一日だけは、飲むのはよそうって、それくらいの目標でいいんじゃないかと思う。その一日一日の積み重ねで、振り返ったら1カ月断酒してた、2カ月断酒してたって、そんなふうな気持ちでいたほうが長続きするって思うんだ」
絶対に断酒します、と言われるよりも、ずっといい。彼は、自分の気持ちを正直に語ってくれる人なのだろう。それに、断酒の方法としても、そのほうが正しいと思う。
「分かりました、平沼さん。明日には、そのビルメンテナンス会社に住み込みで働けるかどうか、はっきりすると思います」
受け入れ先として、私の念頭にあるのは、大学の頃からの友人が経営する会社だ。
信頼できる友人の元に託すことに
友人の名前は、福浦裕太郎(仮名)という。大学時代、日雇い労働者やホームレスの支援活動に、ともに取り組んだ仲だ。私が議員になったあとは、あまり連絡がこなくなる。というのも、彼は、ビルメンテナンス会社を立ち上げていて、役所とも仕事をしていたのだった。だから、議員とはつき合わないほうがいい、と話す。
議員を通じて、仕事にありつこうとする業者はたくさんいた。彼の場合、それとは、真逆なのである。信頼できる友人だと思った。