前科者は「人から信じてもらえねえんだ」

警察の捜査が始まると、彼一人が別室に呼ばれたりもした。それは、事情聴取などというものではない。はじめから、尋問口調の取り調べだった。

「前科者は、いっつもそうだよな。人から信じてもらえねえんだ。でも、結局、俺は悪くなかった」

1週間もせずに、真相が判明した。事務職社員の勘違いで、すでに現金は別の部品購入に充てられていたのだった。そこで、あっさりと騒動は終了する。しかし、それ以降も、従業員たちの態度は変わらない。腫れ物に触るような接し方だった。日ごと、職場に居づらくなっていく。

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そんな折、暑気払いを兼ねた懇親会が開かれることになる。彼は、一旦は参加を断った。だが、社長からの強い誘いもあり、少し遅れたものの、会場となる料理屋を訪れる。店内に入った時だった。奥の広間から、みんなの声が聞こえてくる。

「あいつら、みんなで俺のこと馬鹿にしてたんだ。『刑務所上がりは暗い』とか、『まわりが気を遣う』とか。まあ要するに、社長が全部ばらしてたんだな。その社長なんだけど、笑いながら、こんなこと言ってやがった。『平沼君の前で、網走番外地でも唄ってやろうか』だってよ」

そのまま店の外に駆け出し、もう工場に戻ることはなかった。

アルコールによる犯罪を3回も繰り返す

それからは、まともな仕事に就かず、その日暮らしの毎日を送る。日払いで得た肉体労働の対価は、アルコールに消えていった。

2回目の服役は、32歳の時だった。酔いつぶれて他人の敷地内で寝込んでしまい、「住居侵入罪」、および、見つかった時に家主の手を振り払ったということで、「暴行罪」も加わった。3回目の服役は、「詐欺罪」である。酔っ払って酒代を払い忘れたという、無銭飲食だった。そして4回目は、カップ酒一本を盗んだ「窃盗罪」だ。

4回目の服役中、初めて「酒害教育」なるものを受けた。それにより、近藤さんとつながることができたのである。