福浦から久しぶりに連絡があったのは、2005年の7月、私の出所後のことだった。
「この前、新聞のインタビュー記事、読ませてもらったよ。頑張ってるみたいだね。俺にも、なんか手伝えることがあるかもしれないんで、なんでも言ってきてよ」
即座に依頼したのが、出所者の引き受けである。
人手不足でもあるらしく、翌日には、話がまとまった。それ以来、3人の出所者を雇用してもらっていた。全員が、社員寮に入っている。
平沼さんのことも、きっと受け入れてくれるはずだ。
そう思い、私は、福浦のビルメンテナンス会社の所在地を、平沼さんに伝える。
彼は、少し暗い顔になる。
「どうしました、平沼さん。何か不都合でもあります?」
「まあ、あんまり考えても仕方ないんだけどな……」
彼の顔に笑みが浮かぶ。つくり笑いのようでもあった。
リーダーは少年院から出た後、税理士になっていた
平沼さんは、問わず語りに話しだす。
「その会社があるあたりには、18歳ん時に一緒に捕まった、あの男がいるんだよな。グループのリーダーだったやつさ。あいつ、俺と同じで、勉強なんて全然できなかったんだけどさ。少年院で目覚めたのか、退院してからすぐ、定時制の高校に通いだしたんだ。それから大学まで出て、今は税理士やってるらしい。風の噂じゃ、結構稼いでるみたいだ」
「その人がいる具体的な場所は、ご存じなんですか」
彼が、首を左右に振った。
「だから、風の噂なんだよ。具体的な場所なんて知りもしねえし、知りたいとも思わねえよ。まあ、人の人生と自分の人生を比べてみたって、どうしようもないからな」
続けて平沼さんは、何かを吹っ切るように声を張り上げた。
「俺は俺で、頑張るぞー。まだまだ俺だって、希望はあんだー」
作家、元衆議院議員
1962年、北海道生まれ。佐賀県育ち。早稲田大学卒。菅直人代議士の公設秘書、都議会議員2期を経て、1996年に衆議院議員に当選。2000年に秘書給与詐取事件を起こし、一審での実刑判決を受け服役。出所後、433日に及んだ獄中での生活を描いた『獄窓記』(ポプラ社)が「新潮ドキュメント賞」を受賞。障害者福祉施設で働くかたわら、『続獄窓記』『累犯障害者』『刑務所しか居場所がない人たち』などを著し、罪に問われた障害者の問題を社会に提起。現在も、高齢受刑者や障害のある受刑者の社会復帰支援に取り組む。小説作品として『覚醒』(上下巻)『螺旋階段』『エンディングノート』がある。
