新天地への船出

 物語の舞台は絶海の孤島。弟の陰謀によってミラノ公爵の地位と領地を奪われたプロスペローは、ここで一人娘のミランダと暮らしている。復讐の時に備え、秘術を磨きながら。やがて、その日がやってきた。プロスペローは精霊を使って嵐を起こし、裏切り者たちが乗る船を転覆させる。命からがら島に漂着した彼らへの接近を企むうち、娘はナポリの王子と恋に落ち、奴隷には命を狙われる。そして自らを陥れた弟と再会したプロスペローの決断は――。

「最終公演にふさわしい演目を探すべく、創立から71年間の全3535公演を振り返ってみたのですが、なんと、『テンペスト』は一度も上演したことがなかった。これは運命だ!と思いましたね。島を出て人生の新たなステージに向かって船出するというラストも、私たちの心情に合っている。そして何より、この劇場で最後の最後に発されるセリフを考えた時、どうしてもこの作品をやりたいと思うようになったんです。創志さんは、まさにぴったりの言葉を当ててくださいました」(宮澤さん)

さようなら俳優座劇場 最終公演『嵐 THE TEMPEST』

 小田島さんは、「翻訳って、言葉を日本語に移し替えるだけじゃなく、解釈も必要なんです。特に古典では1つのセリフに何通りも解釈があって、どれを取るかによって、そのシーンの意味やニュアンスが変わってきます。それが難しくて、面白いところ。僕は、本作は孤独な人物が他者と向き合い、出会い直す物語だと思っています。その結果、プロスペローが下す決断や周りの人たちとの関係性の変化に注目してほしいですね。物語の最後は――彼は、12年間、孤独に過ごした島から出ていきます。そう言われてみれば、これは俳優座劇場が新天地を目指して再出発するイメージと重なりますね」と頷き、「そのお役に立てたなら、とても嬉しいです」と、頼もしく微笑んだ。

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 最後に、船出した“俳優座劇場”がこれから目指す先について宮澤さんに聞くと――。

「場所こそなくなりますが、理念を大切に、俳優座劇場プロデュースの公演は続けていくつもりです。六本木の地から解き放たれ、公演を開くその場所その場所を“俳優座劇場”にする。そういう自由な発想で進んでいきたいですね」

おだしまそうし/1991年生まれ、東京都出身。現代英語圏における戯曲の翻訳、およびハロルド・ピンター、トム・ストッパードを中心とした現代イギリス演劇の研究を行っている。武蔵大学、明治薬科大学ほかで非常勤講師。『悲劇喜劇』編集協力。シェイクスピアの戯曲翻訳はこれが初めて。

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舞台『嵐 THE TEMPEST』
作:ウィリアム・シェイクスピア 翻訳:小田島創志 演出:小笠原響
出演:外山誠二(UAM)、浅野雅博(文学座)、あんどうさくら(昴)、平体まひろ(文学座)、藤原章寛(文化座)、藤田宗久(演劇集団 円)ほか
企画制作:俳優座劇場
4月10日(木)~19日(土)俳優座劇場にて ※17日(木)13時~の追加公演チケット発売中
https://www.haiyuzagekijou.co.jp/produce/

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