下半身に乗っていた、何人もの人の身体
自分がどうして動けないのか、暗い中で確かめようとした。上半身は後ろに少し寄りかかって座っているような姿勢になっている。両手を動かすことができる。手を前へ伸ばすと、何かが壁のように塞いでいる。それが何であるかは、暗いのでわからない。
頭の上にはやや空間があるが、その上には天井のようなものがある。狭い空間に閉じこめられた感じだ。(天井のようなものは、後で救出される時に、進行方向に向かって右側の窓だとわかった。車両が左へ転覆して駐車場に飛びこんで潰れた時、右側面の窓やドアが上になって潰されたため、内部で生き残った者には天井のように感じられたのだ。)
一方、下半身は何かが乗っかっていて、両足を引き抜くことも動かすこともできない。何が乗っかっているのか、上半身を前にこごめるようにして両手を伸ばして触ってみた。闇の中では、それが何であるかわからないが、鉄のような硬いものではなかった。柔らかだ。手が届く範囲で慎重に触ってみると、何と人の身体ではないか。亮輔は衝撃を受けた。
手をさらに動かして調べると、1人や2人ではない。何人もが折り重なるようにして、足の上に積み重なっている。ところが、重みを感じない。下半身が苦しいという感覚はあるのだが、重さも痛みも感じないのだ。
暗闇の中に置き去りにされた孤立感
《なぜだろう。下半身の感覚が麻痺しているのか? 脳がいかれたのか? 幻覚か? それとも、もうあの世に片足を突っ込んでいるのか?》
亮輔は、自分が事故に巻き込まれ、めちゃめちゃに潰れた車内に閉じ込められていることを、一刻も早く両親や恋人の美咲に知らせなければと思い、ジーンズのポケットに入れていた携帯電話を取り出そうと、手を伸ばしたが、下半身に重いものが乗っていて、ポケットに手を入れることができない。腕時計はどこかに飛んでしまって失くなっていたし、携帯も取り出せないので、一体事故からどれくらい時間が経ったのか、確認することもできない。
暗闇の中に置き去りにされた孤立感が襲ってくる。このまま見捨てられるのか。
相変わらず、あちこちから悲痛な叫び声があがっている。だんだん弱っていく声もある。
悲しみが破壊空間の中に満ち満ちている。
亮輔は、突然不安にかられ、叫んだ。
「助けて! 誰か、助けて! ……」
返事はどこからも返ってこなかった。
