『チェーンギャング・オールスターズ』(ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤー 著/池田真紀子 訳)集英社

「心に描くものは、すべて君のもの。」「今日、運が味方してくれるといい。」というエピグラフを、前者はデビュー短編集『フライデー・ブラック』で、後者は2作目の今作『チェーンギャング・オールスターズ』で使用した小説家のナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤーはガーナ移民の両親の元でニューヨーク州で育った。

 どちらのエピグラフも第59回スーパーボウルのハーフタイムショーに出演したケンドリック・ラマーのリリックから取られている。彼のショーはドレイクへのディスソングも披露しつつも、「これが偉大なアメリカのゲームだ」「この革命はテレビで放映される」などとアメリカ中を煽った。

 本書は近未来アメリカが舞台になっている。民間刑務所によって生まれた「CAPE(クリミナル・アクション・ペナル・エンターテインメント)」は囚人たちに“任意”で殺し合いをさせ、それがサブスク配信されて大人気のスポーツとなっている。参加した囚人はリンクと呼ばれ、チェーンというチームを数人で組んで行動を共にしており、その光景も中継されている。

ADVERTISEMENT

 リンクたちにはランクがあり、最上位「フリード(自由人)」になれば、罪が免責されて釈放される。その次の「グランド・コロサル(最超人)」ランクで現在最強と言われているのが戦槌を用いるサーウォー。同じチェーンで彼女よりも2ランク下の「ハーシュ・リーパー(非情な死神)」ランクの大鎌使いのスタックス。彼女たちは盟友で恋人同士であり、トップクラスの人気を誇る女囚戦士だった。サーウォーがもうすぐ「フリード」になると誰もが思っていた矢先、ゲームマスターから非道な新ルールが導入されることになる。

 本書は囚人たちの殺し合いバトルがメインだが、そのつど挟み込まれるエピソードにはリンクの家族たちや「CAPE」プログラムに抗議する人たち、そしてサブスク配信に熱狂するリンクファンの物語があり、「見るもの」と「見られるもの」の関係性も内包させて、この殺人スポーツをより多角的な視点で見せていく。

『フライデー・ブラック』には「ブラック・ライブズ・マター」運動のきっかけになった事件である人種が原因となって振るわれる暴力について書かれた短編が収録されていた。今作はその暴力や黒人差別は引き続き描かれているが、サーウォーとスタックスを主軸にしたことで、女性が男性や社会から受ける差別やLGBTQ+問題も組み込んだエンターテインメント小説に昇華されている。

 リンクたちの生死をかけた殺し合いに熱狂するファンの姿に、SNSの炎上や文春砲で取り上げられる出来事に反応する私たちの姿を、ワンクリックで他人を地獄に突き落としてしまう可能性を見てしまう。近未来を舞台にしたこのフィクションは私たちの現在地を血の色で照射している。

Nana Kwame Adjei-Brenyah/1991年、米ニューヨーク州生まれ。両親はガーナからの移民。2018年秋に米本国で刊行されたデビュー作の短篇集『フライデー・ブラック』で大きな注目を集める。本書は全米図書賞とアーサー・C・クラーク賞の最終候補作に選出。
 

いかりもとまなぶ/1982年、岡山県生まれ。物書き&Webサイトスタッフ。「BOOKSTAND映画部!」で「月刊予告編妄想かわら版」連載中。