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誤解その4「軍歌はすばらしい芸術作品だ」

 最後に、「軍歌は日本人の魂であり、誇るべき芸術作品だ」などという見解についても触れておこう。その名も『日本の軍歌は芸術作品である』(林秀彦著)という本さえ刊行されている。

 右派に好まれる言説だが、これもまた間違いのひとつである。

 すでに述べたとおり、軍歌は商品であって、戦時下に粗製乱造されていた。そのため、当時の音楽評論家からも「愚作」「凡作」「退屈」「失敗」「乱作乱売」などとの批判を受けていた。

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 また、人気の軍歌には類似作が出回ったため、レコード検閲官にも「傍で見る眼には笑止千万」と呆れられる始末だった(『出版警察報』76・77号)。 

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 新聞の投書にも同じような軍歌批判がみられた。

 戦後に発売された軍歌CDなどを聴くと、いかにも優れた作品ばかりのように思える。だが、それは約1万曲のなかから比較的よくできた曲を選んでいるからであって、残りすべてが優れているわけではない。

戦後だからこそ犯してしまう間違い

 戦後、われわれの日常から戦争や軍隊が遠ざかった。それは幸いなことだったが、そのいっぽうで、「軍歌が当たり前に存在する社会」への想像力を失わせた。軍歌への誤解の広がりは、このことと密接に関係している。

 つまり、戦後だからこそ「軍歌と戦時歌謡は違う」と考えてしまうのであり、戦後だからこそ「軍歌は芸術作品である」といえてしまうのである。

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 しかも、戦後民主主義社会を批判するものが、しばしばそうした「戦後民主主義的な」間違いを知らずに犯している点に深刻な歪みがある。これは、森友学園の戦前コスプレ的な愛国教育とも似ていなくもない。

 それはともかく、虚構の軍歌をイメージして、「軍歌だ」「いや、軍歌ではない」と議論しても、空回りするだけである。実は多種多様だった日本の軍歌について少しでも知ってもらえれば――あるいは今回の騒動のような不毛なレッテル貼りも減るかもしれない。