赤ちゃんと母親を連れまわした誘拐事件
1970年3月22日夜に起きた、キャスリーン・ジョーンズとその赤ちゃんが誘拐された事件もゾディアックの犯行ではないかとみられている。この日、赤ちゃんを連れて、サンフランシスコ郊外を車で走っていたキャスリーンは、後ろを走っていた車のドライバーから、後輪が緩んでいるので停車するように言われる。停車すると、男は後輪を修理してくれたものの、またすぐに外れてしまったため、男はガソリンスタンドまで母娘を送ると申し出た。しかし、男はガソリンスタンドに寄ることはなく、2時間にわたって車を走らせ、何度も「お前を殺す」と言い放ったという。男が急ブレーキを踏んだ瞬間、キャスリーンは娘を連れて車から飛び降り、灌漑用の水路に身を隠して、男から逃れることができた。その後、燃やされたキャスリーンの車が発見された。
キャスリーンは、警官から、スタイン殺害事件の指名手配犯の似顔絵を見せられた時「彼だ!」と叫んだという。ゾディアックは、同年7月24日、サンフランシスコ・クロニクル紙に送った手紙の中で、「数ヶ月前の夕方、女と赤ん坊を車に2時間ほど乗せ、彼女の車を燃やした」と誘拐事件について告白している。
偽ゾディアック現れる
ゾディアックは、1969年から1974年にかけて、地元紙や警察に、犯行声明文や暗号文などが含まれた手紙を15通送りつけている。解読されたZ408の暗号文は前述したが、事件から52年経った2020年には、1969年11月8日にサンフランシスコ・クロニクル紙に送ったZ340の暗号文がアマチュアの暗号解読グループにより解読されている。以下が、その内容だ。
「私についての重要な点を浮き彫りにするテレビ番組に出演していたのは私ではないのに、あなた方が私を探し出すのを大いに楽しんでいるといいな。私はガス室を恐れていない。なぜなら、ガス室は私をすぐに天国に送ってくれるからだ。今は私のために働いてくれる奴隷が十分にいる。他の皆は天国に着いても何も持っていないので、死を恐れているんだ。私は恐れていない。なぜなら、私の新しい人生は天国の死の中で楽なものになると知っているからだ」
この暗号文の中で言及されているテレビ番組は「ジム・ダンバー・ショー」というテレビショーのことだが、このショーは、ゾディアックに電話をかけてくるよう呼びかけた。ゾディアックから電話が入り、自身の名前はサムだと名乗った。この暗号文は、サムがこのテレビ番組に電話をかけてきてから2週間後に送られていたが、ゾディアックはこの番組に電話をかけたサムという人物は自分ではないと訴えているのである。実際、サムは精神病院の患者であることが判明した。偽のゾディアックが現れるほど世間を巻き込み、騒がせたゾディアックだった。


