「暗号を解けば犯人を逮捕できる」と挑発

 同年8月4日には、サンフランシスコ・エグザミナー紙が「編集者様 こちらはゾディアックです」との自己紹介で始まる手紙を受け取る。以降、犯人は“ゾディアック”と呼ばれるようになった。この手紙の中でゾディアックは暗号を解けば犯人を逮捕できると挑発している。

 その暗号は、8月5日、暗号解読家ではない、パズル好きなアマチュアのハーデン夫妻によって解読されるが、作家リチャード・コネルの1924年の短編小説『最も危険なゲーム』への言及が含まれていた。解読された暗号文は以下の通りだが、ゾディアックは自身の来世のために殺人を犯したと訴えている。

「私は人を殺すのが好きなんだ。とても楽しいから。森で野生動物を殺すよりも楽しい。人間はあらゆる動物の中で最も危険な生き物だからだ。何かを殺すことは私に最もスリリングな体験を与えてくれる。それは女の子とセックスするよりもずっといい。そして最もいいことは、私は死んだら楽園の中で再生し、私が殺した者全員が私の奴隷になるということだ。お前は私の来世のための奴隷集めを遅らせたり止めたりしようとするから、お前には私の名前は教えない。エベオリエテメスピティ」

大きなフード付きの黒い衣装でメッタ刺し

 ベイエリアが3番目の恐怖に襲われたのは1969年9月27日。

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 この日、パシフィック・ユニオン・カレッジに通うブライアン・ハートネル(20歳)は前の恋人セシリア・シェパード(22歳)を誘って、サンフランシスコ北部ナパ郡のベリエッサ湖に出かけた。ピクニックを楽しんでいた2人にゾディアックは近づき、銃を振り翳して「警備員を殺害して脱獄したため、メキシコに行く車と金が必要だ」と訴え、2人を縛り上げると、メッタ刺しにした。その数、ブライアンは8回、セシリアは10~20回。セシリアは2日後死亡したが、亡くなる前、犯人の特徴について言及している。その風貌たるやなんとも不気味なものだった。中世の死刑執行人が身につけるような大きなフード付きの黒い衣装を纏っていたというのだから。その衣装には円と十字というゾディアックのシンボルも記されていた。また、ゾディアックはブライアンの車のドアに、ゾディアックのシンボルと殺害の日にちを以下のように記していた。

「ヴァレホ

 

 68年12月20日

 

 69年7月4日

 

 69年9月27日 6時30分 

 

 ナイフで」

写真はイメージ ©︎AFLO

 ゾディアックはまた、午後7時40分、公衆電話からナパ郡保安官事務所に電話をかけ、電話通信係に「殺人事件を、いや、2人を殺害したことを通報したい」と犯行を告げている。

 ところで、2人が刺されたその日、ベリエッサ湖周辺では不審な男が目撃されており、目撃者の協力でその男の似顔絵も描かれている。

 この事件から2週間が経過した1969年10月11日、ゾディアックは4件目の殺人を犯した。