それゆえに、彼女たちは生者たちに自身の気持ちを伝えようとしても、その道は閉ざされている。目の前の人の落とし物に気づけども、拾って渡すこともできないし、車の中に放置された赤子を見つけようとも、第三者に助けを求めることもできない。

 筆者が前述した「片思い」の例は、同じ言葉を基盤として共有し、それをかわし合おうともなお心の深部が交錯し得ない「片思い」であったが、3人はそもそも外部の人間に対しては、物理的に言葉を交わす機会が奪われている。

 10年以上にわたって、ともに暮らしを紡いできたこともあり、美咲、優花、さくらの絆は強固なもの――多少の意思のすれ違いはあれ、それぞれが深く思いやる「両思い」の状態――ではある。たとえば、劇中で幾度か繰り返される彼女たちのハイタッチや、「なんでもないの」「ただのかわいそうな」「お話」といった、言葉の息の合った掛け合いからそれが了解できるだろう。その反面で彼女たちは、日常のなかで自分たちのすぐそばにいながらも、決して触れることができないさまざまな他者に囲まれることで、「片思い」という疎外感を強く覚えている。

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節々にのぞかせる「両思い」の萌芽

 しかし、そんな日々のなか、3人はいつも(外れてばかりの)天気予報を聞くラジオから、不思議な音声が流れてくるのを耳にする。そのなかでは、彼女たちが現実世界に戻るための重要なヒントが示唆されていたのだ。ラジオのガイダンスに従い、3人は旅に出ることを決める。いっぽう、現実世界においても、生前の彼女たちとかかわりのあった人たちに、それぞれ重大な転機が訪れており……。