「台湾有事の際の米軍派遣」を繰り返し明言したバイデン前米大統領に対して、トランプ米大統領は「コメントしない。そのような立場になりたくない」として明言を避けている。

 こうした曖昧な態度はトランプ大統領の一貫した姿勢だ。過去には「(台湾封鎖を実行した場合は)中国に150~200%の関税を課す」「台湾は米国の半導体ビジネスを奪った」とも発言しているため、台湾では「トランプは武力で台湾を守らない」という不安が広がっている。安倍元首相がかつて発言したように「台湾有事は日本有事」であり、トランプ大統領の姿勢は、日本も他人事では済ませられない。

トランプ ©CNP/時事通信フォト

コルビー国防次官が提唱する「台湾が我々にとって重要な理由」

 第2次トランプ政権では、第1次政権時よりも、「台湾の重要度」が明らかに低下しているようだ。「台湾有事の際の米軍派遣」に消極的であることが、新旧の側近の発言からも見えてくる。マット・ポッティンジャー氏(第1次トランプ政権の国家安全保障担当の大統領副補佐官)とエルブリッジ・コルビー氏(現・国防次官)の二人の対照的な発言である。

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 コルビー氏が務める国防次官は、国防総省において長官、副長官に次ぐナンバー3だ。現政権のヘグセス長官、ファインバーグ副長官はともに国防総省での実務経験がない。ゆえに、コルビー氏が実権を握っていると見られている。そのコルビー氏は最近の著書『アジア・ファースト――新・アメリカの軍事戦略』(文春新書)でこう述べている。

〈拒否戦略の目標は、柔軟で適応可能な「優位なバランス・オブ・パワー」の維持〉〈これは、ポッティンジャー氏らが提唱している「中国に対する勝利」とは違います。なぜならリアリストにとって、「勝利」は決して最終的な目標になり得ないからです〉

〈ポッティンジャーたちの考えでは、北京は非常にアグレッシブで危険な存在だということです。そして彼らは、アメリカはアジアにおいて「軍事的優位」を獲得しなければならないと主張しています〉

〈台湾が我々にとって重要な理由は、台湾そのものに重大な権益があるからではなく、中国とアジアが重要だからです。(略)台湾は非常に重要な権益ですが、それでも派生的なものでしかなく、アメリカにとっては生存を左右するものではありません〉(『アジア・ファースト』より)

 これに対してポッティンジャー氏が、このほど「文藝春秋」6月号のインタビューに応じてこう反論した。