共同体が存続するために必要なものとは?
山極 やっぱり人は共同体とのつながりが命なんですよね。最近は、自己実現、自己責任という言葉が流行っていて、「個々の能力や資産を拡大して、老後に備えなさい」と言われるけど大間違いです。人が最終的に頼るのはご縁。地縁、血縁、社縁……人と人とのつながりを大事にして、互いにもっと助け合うことを常識とするような社会をつくらなくてはいけない。そこで高齢者が貢献できることは大きいし、貧しくともお互いに頼りあっていけば幸福に生きられると思います。
内田 全く同感です。そして共同体が存続するためには、単に「一緒にいる方が安全だ。一緒にいると楽しい」というだけでなく、この共同体を毀損することなく次世代に伝えるというミッションが必要なんです。
僕の場合は武道と哲学の教育共同体ですけれども、僕はここで師から学んだ武道の哲学と技法を門人たちに「パス」しています。大学の仕事もまだしていますけれども、これも建学者がこの学校に託した建学の理念を次世代に伝えるということが僕のミッションだと思っています。
ただ自己保存のために存在するのではなく、存続することを通じて「何としても伝えるべきことがある」という「使命感」を持つ共同体は強い。ただメンバー同士で助け合う相互扶助共同体というだけの設計では必ず「あいつはフリーライドだ」「オレはずっと持ち出しで割を食ってる」と言い出す人が出てくる。今ここでの利便性をめざして作った共同体は資源分配をめぐっていずれ必ず瓦解する。でも、僕のような「ミッションを伝えるための共同体」は持ち出しで、割を食うのは制度設計の前提なんです。僕は師から豊かな贈り物を無償で頂いた。それを次世代に伝えるのは「反対給付義務」の履行なわけです。だから、僕が持ち出しで当然なんです。
共同体づくりって、大変なんですけれども、どういう共同体が豊かで楽しいものになるのか、知恵を絞って考えてゆきたいです。人はご縁で生きる存在ですからね。
山極 ひとりではなくて、つながりの中で生きることが、美しく老いることにもなると思いますね。
内田 では今日の結論は、多様なご縁を張り巡らせていく生き方が「よい老い」の作法だということで(笑)。
山極 はい、今日はよいご縁をありがとうございました。
内田 こちらこそ、ありがとうございました。
(MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店にて)

