精神疾患患者を医療につなげるために

──なぜ警察通報から医療につなげることができなかったのでしょうか。

押川 脱施設化によって、病院や施設が対応困難な精神疾患のある患者を受け入れなくなってきたからです。「本人の意思」を盾に、「本人が望んでいないことを行うのは人権侵害だ」と家庭に押し込めてきた。どんなにSOSを出しても、病院にも施設にも受け入れてもらえないのです。そのくせ、何かあれば「自己責任」と切り捨てる。これでは飛び降り自殺をしようとする人間の背中を押すのと同じです。

相馬仁志 『「子供を殺してください」という親たち』17巻より

 さらに精神保健福祉法第22条では、精神障害で自傷や他害の恐れがある人について申請する場合、申請者の住所、氏名及び生年月日が必要です。例えば宮崎県や鹿児島県では、県の公式HPに一般申請の方法が明記されていますが、対象者から個人情報開示請求があった際には、申請等のやりとりが開示される可能性があることが明記されています。

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 そのため通報自体を躊躇する住民もいると考えられますが、それでは制度趣旨が損なわれ、申請者の権利利益を侵害する恐れもあります。そこで、申請者となる住民が精神疾患患者により被害を受けている場合などには、個人情報保護法第78条(第1項第2号)に該当するとして、不開示とされるよう自治体に掛け合うことも可能です。

 ほかにも私は、地域選出の議員が住民の声をとりまとめ、代理人として一般申請を行う方法なども提言してきました。公的支援が必要な重篤な精神疾患患者が医療につながる機会が、少しでも広がってくれることを期待しています。

──一般の方からの申請が増えて医療アクセスが向上すると、押川さんのお仕事が減ってしまうのではないですか?

押川 むしろそれは、本望です。綺麗事に聞こえるかもしれませんが、私はこれまで「何としても助けないといけない」という精神疾患を抱える患者を医療につなげることに、文字通り命をかけて戦ってきました。5年前に2度の心筋梗塞を患い、今現在3割弱しか心臓は動いていない状態ですが、果たすべき使命があるから生かされているのだと思っています。

©細田忠/文藝春秋

 その一つが費用の問題です。私の事務所は民間であるがゆえに、報酬を頂かないと助けられない、というもどかしさがありました。しかし地域共生社会となった以上は、公的な制度や資金を利用して解決する方法を見出さなければなりません。そのために私自身も、制度の活用等を改めて見直しているところです。

 とはいえ精神疾患を抱える患者の医療アクセス問題の解消は、私だけがやっていても限界があります。一般の人々の意識がかわり、地域の誰もが、適切な医療が必要な人をサポートできる仕組みが整うよう、どんどん一般申請制度が広まってほしいと願っています。

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