インタビューを終えて21時45分に感想戦が始まる。両者とも疲れ切った表情をしているから軽めかな。いや、いつも通りの2人だった。
藤井も永瀬も膨大な読みをアウトプットしていく。なるほど予想とは違う手順を指したのにはこういうわけがあったのか。これはAIに聞いてもわからない。102手目の銀を前に出た手が敗着なのはわかっているため、暗黙の了解でその局面にはしない。
変化で藤井玉が敵陣に突進し、藤井が「けっこう泳げないですね(逃げ切れないの意味)」と言えば、永瀬も「ここが(藤井玉の)ゴールですか」と独特の表現をしながら、にこやかに感想戦を進める。あんな激闘の後なのに、2人ともなんてタフなんだ。
立会人の中村も魅入っているではないか
棋力だけでなく、気力も体力も化け物だ。そういえば高見泰地七段が、永瀬と対局前日に研究会をすると言っていたなあ。
感想戦が進み、遠慮がちに見守っていた阿久津と広瀬も会話に加わった。そりゃそうだ、こんな面白い終盤戦はめったに見られない。口を挟まずにはいられない。
ふと外を見た。窓に対局室が映っている。文明を象徴する飛行機と、日本文化を象徴する将棋、なんともいえない風景で、思わず写真を撮った。
振り返ると藤井、永瀬、広瀬、阿久津が楽しそうに話している。現実ではないようだ。だけど時間が時間だ。もうそろそろ中村の出番だ。と見ると、中村も魅入っているではないか。おいおい立会人の仕事をしないと、空港職員の方がソワソワしているよ。
ようやく中村が「もうそろそろ」と声をかけ、長い長い一日が終了した。時計を見ると22時57分! やばい、本当に終電だ。次は関西空港だ。タフな戦いを見届けねば。
写真=勝又清和




