ほとんど例がないケース
「あれは、元々の設計にはなかったんです。弊社から提案し、取り付けに至りました。せっかく作るんだから名古屋らしい装飾をと思って提案し、国土交通省さんの承認を得て取り付けることになりました」
なんと、あの金シャチは元から計画されていたものではなく、施工業者さんからの提案で取り付けることになったというのだ。
なぜ金シャチなのか、名古屋城との関係についても聞いてみた。
「深い意味はありません。あくまでも名古屋らしい景観というだけです」
デリネーターとしての機能もあるのか尋ねてみたところ、「そのような機能はありません。あくまでも装飾ですので」とのことだった。
また、あの金シャチは特注品で、試作サンプルを作って国交省に持っていったそうだ。
これでようやく、金シャチの謎が解けた。施工業者さんの心意気で生まれた、地元名古屋を誇る装飾だったのだ。これは、地元の方にいくら聞いても分からなかったはずだ。
その後、最初に電話した国交省の出張所にも電話で真相をお知らせしたところ、「そんなこともあるんですね!」と驚いていた。設計にない装飾を、施工業者さんからの提案で取り付けることは、ほとんど例がないということだった。
調査を依頼された大竹さんにも報告したところ、「業者さんの名古屋愛を感じますね。名古屋城天守の金のシャチホコも機能的な意味はない装飾ですから、むしろ正しい活用法ではないでしょうか」という返事が返ってきた。なるほど。言われてみれば確かに正しい活用法なのかもしれない。
私は常々「道は人が時間とお金をかけて造るものなので、道の上に意味のない物は存在しない」と思っているが、その意味を示す資料は存在せず、20年も経たないうちに知る人もほとんどいなくなっていた。今回は紙一重のところで真相にたどり着けたが、あと10年遅かったら、たどり着いていなかったかもしれない。そう思うと、金シャチという小さな謎ではあるが、調べてこうして書き残すことに意義があると思いたい。
今回、金シャチの謎を調べる過程で非常に多くの人に助けて頂いた。聞き込みを行った後、わざわざ電話やメールでお知らせ頂いた方もいた。関わった全ての方に、心よりお礼を申し上げたい。
※大竹さんと2人で調査した模様は5月13日にCBCテレビ「道との遭遇」で放送されました。放送後1週間はTVer等で視聴できます。
また、同取材の様子は7月に出版される大竹さんの新刊『金シャチ町あるき』(仮)のコラムでも取り上げられる予定です。

