《たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか 河野裕子》

《きみに逢う以前のぼくに遭いたくて海へのバスに揺られていたり 永田和宏》

 2011年に刊行された『たとへば君 四十年の恋歌』(現在は文春文庫)は、河野裕子と永田和宏という、現代を代表する歌人夫婦の長き歩みを描いた作品だ。学生時代の出会いに始まり、2010年に妻が闘病の末に先立つまでの40年間が、互いの短歌と散文で表現される。広く読み継がれてきた本作が、このたび朗読劇として上演されることになった。夫妻を演じるのは浅野ゆう子さんと中村梅雀さん。浅野さんに話を聞いた。

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2025年9月17日(水)~20日(土)
新国立劇場 小劇場にて
6月20日(金)10時より、チケット一般発売開始

「お話をいただいて、原作を読ませていただいたのが去年の夏くらいでした。とても素敵なお話である一方、40年間もの時間を過ごされたご夫妻の死別を描いた、切なくも悲しい実話でもある。難しい挑戦となりますが、中村梅雀さんという素晴らしい俳優さんの胸をお借りし、単なる朗読ではなく『朗読劇』ですので、あくまで『芝居』をお届けしたいと思っています」

 原作は、夫婦それぞれが互いを詠った相聞歌(恋愛歌)が数多く掲載され、その合間に折々の河野さんの心情を描いたエッセイが挟まれるという構成。特に、短歌を朗読するという未知の課題と、現在浅野さんは向き合っている。

「短歌を朗読で表現するというのは私にとって初めてのこと。今回、膨大な量の短歌を読むことになりますが、そのひとつひとつは大切な思いの込められた作品ですので、一字一句間違いのないように丁寧に朗読しなければいけません。また、気を付けなければと思っているのは、短歌を読むときに感情を込めすぎないということです。歌のなかには凝縮されたつよい思いがすでにありますので、それがストレートに観客の方々に届くように、なるべくフラットに読むことを心がけています」

 副題に「四十年の恋歌」とあるように、今回浅野さんが演じるのは20代から60代までの河野裕子さんの姿だ。若い頃から死の間際までを演じ分ける必要性があるのも、難しさのひとつだろう。

「普通、舞台であれば年齢関係なく演じることはできるんですよ。でも今回の朗読劇では衣装替えもありませんので、見た目を変えることはできない。声の高さや表情だけで、若い女子大生の時分から結婚し子どもが生まれ、最終的には闘病する姿を演じなければなりませんので、難しい挑戦にはなります。そのなかで、河野先生が年齢を積み重ねていく様子を表現できればと思っています」

浅野ゆう子さん

 最後に、河野裕子さんの短歌のなかから印象に残っている歌を尋ねると、《何といふ顔してわれを見るものか私はここよ吊り橋ぢやない》という作品を挙げた浅野さん。2000年、乳癌を告知された直後の河野さんが、病院の外で永田さんと落ち合った瞬間のことを詠んだ歌だ。

「『吊り橋ぢやない』という表現に驚きますよね。永田先生は癌を告げられた直後の河野先生を直視できなかった。でも河野先生はそんな永田先生の様子に、もっとちゃんと自分を見てほしいと感じられた。人間らしい気持ちがストレートに表現されていて、胸の奥にグッと刺さってきます」

あさのゆうこ/1960年生まれ、兵庫県出身。74年に歌手としてデビュー後、同年、『太陽にほえろ!』で女優デビュー。88年の『君の瞳をタイホする!』、『抱きしめたい!』に出演して以降は、「トレンディドラマの女王」と呼ばれるほどにブレイクした。96年、映画『藏』で第19回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞。テレビ、映画など出演作多数。

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朗読劇『たとへば君 四十年の恋歌』
新国立劇場 小劇場にて、9月17日~20日に上演。6月20日10時より、チケット一般発売開始
https://artistjapan.co.jp/performance/ajrt_tatoebakimi2025/

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