数々の名店が、惜しまれつつも消えていった

 かつて本州・四国を結ぶメインルートであった「宇高連絡船」(岡山県・宇野港~香川県・高松港)と鉄道の乗り換え拠点でもあった高松駅(香川県)では、構内の立ち食いうどん店が「2店」で「1日5000杯」という凄まじい売れ行きを記録していた。しかし、1988年の瀬戸大橋開業によって連絡船は廃止、橋を経由する特急列車は高松を素通りして岡山に向かうため、この駅での乗り換えと、うどん店の需要は激減する。

かつて営業していた「連絡船うどん」の外観

 さらに、駅での飲食物の提供が駅弁・駅そばに限られていた昔と違い、いまの高松駅は外に出ればコンビニや他のうどん店も無数にある。「ライバルが増えて顧客が駅そば・駅うどんを選んでくれなくなった」のは、全国共通の悩みだろう。駅の改装後も最後まで改札内に残っていた立ち食いうどん店「連絡船うどん」は、2021年に閉店してしまった。

連絡船うどんで提供していた、天ぷらうどん

 北海道・留萌本線の「留萌駅立喰そば」のように、2023年3月の路線廃止(石狩沼田駅~留萌駅間)によって駅ごと廃止されてしまう場合もある。いかに人気店といえど、鉄道の敷地内に店がある以上、鉄道と運命を共にせざるを得ないのだ。

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留萌駅の立ち食いそば店は、人気だったにもかかわらず駅の廃止と運命をともにした

 地元業者が細々と経営する駅そば店では「店主の高齢化」によって閉店するケースも多い。近年では、独自の「黒そば」を出していた宗谷本線・音威子府駅「常盤軒」が2021年に、士別駅「フードサービスささき」が2024年に、高齢であった店主の死去によって閉店のやむなきに至った。中津川駅・根の上そばも、社長が体調を崩したことから、駅弁販売も含めると120年以上にも及ぶ歴史に幕を閉じることにしたという。

どんな人気店も「駅」には逆らえない

「鉄道会社との契約終了により存続断念」という事例も出てきた。東北本線・小山駅で長らく営業してきた「小山駅きそば」はコロナ禍明け、非常事態宣言の解除後には過去最高の売り上げを記録するなど好調に営業していたものの、JR東日本の関連会社から「営業委託の契約終了」を通告され、2022年1月にやむなく閉店に至った。

 ホーム上での駅そば販売は、閉店だけでなくコンコース(通路)に移転するケースも多い。どんな人気店でも、駅で営業している以上、鉄道会社の意向に沿わざるを得ないのだ。

 こうして見ると、全国の駅そば店の存続には、味やサービス以外にも「そば店以外との競合」「後継者の育成」「鉄道会社との関係性」など、さまざまな課題が立ちはだかっている。

 そんな中で「消えたはずの駅そばの名店が、足かけ7年ぶりに復活」というニュースが入ってきた。さっそく北海道に飛んで現地を見分したところ、地方の「駅そばの生き残る道」が、この店に隠されているのかもしれない、と感じた。