1日の利用者数は「わずか100人」の駅に、駅そばが大復活

 7年ぶりに復活した駅そば店「北一そば」がある北海道遠軽町は人口1.7万人、石北本線・遠軽駅の利用者も1日100人少々。店長の渡部みゆきさんも、人影もまばらな駅前商店街を眺めながら「うーん、静かだなぁ…」と漏らすような環境で、お世辞にも駅そばがビジネスとして成立するように見えない。

遠軽駅の跨線橋から。のどかな景観が広がる

 ところがどっこい、通りがかる人々は高確率で駅そば店を眺め、ふらっと入っていく。中には「どうしても食べたかった」という地元のお婆さんが家族に手を引かれて食べに来たり、駅員さんが休憩中に食べに来たり。列車が1日7~8往復程度しか発着していないのに、あれよあれよという間に5杯も売れてしまった。1人で切り盛りする小さな店ながら、渡部さんによると「1日5万円以上を売り上げるときもある」そうで、なかなかの盛業のようだ。

北一そばの「全部乗せ」

 さっそく、いただいてみよう。普通のかけそばは550円、ここに半熟卵・かき揚げ天ぷらのトッピングで、全部乗せても770円。味はごく普通だが、1932年に建設された駅舎や古めかしい跨線橋を眺めながら啜る一杯は、格別な味わいだ。

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名物は「ジビエそば」。そのお味は…

 特に人気なのが、1300円もする「ジビエそば」。地元・遠軽町の「オホーツクジビエ」で加工した鹿肉を圧力鍋で角煮にして、肉の味が染みた大根の煮物とともに、沖縄そばの上に豪快にぶっかけて完成する。

 捕獲から1時間内で処理されるという鹿肉の角煮は旨みたっぷり、臭みもない。かつ鹿肉・大根ともかなりのボリュームがあり、食べても食べても「まだあるのか!」というほど味わえる。このジビエそば、駅そば界随一の満足感・満腹感を味わえる逸品だ。

「ジビエそば」には、これでもかというほど鹿角煮が乗っている

 北一そばは、2025年6月現在で「日本最北の駅そば店」だ。かつて日本最北の駅・稚内にあったそば店は2012年に退去しており(改札近くに店はあるが、併設の商業施設内なので「駅そば」ではない)、先に述べた音威子府駅、士別駅が次々と閉店したため、「最北」の座が回ってきたかたちだ。

 日本最北の駅そばを求めて遠方から来る人も多く、地元の常連客にも大人気。北一そばは、小規模経営の駅そば店が生き残る法則である「旅行客も、地元客も両方つかむ」ことに、今のところ成功しているようだ。

なぜ、一度閉店したのに復活できたのか

 北一そばの歴史は、1941年に始まった。その後、60年以上も店に立ち続けた勝本一子さんが2019年に亡くなり、閉店を余儀なくされた。なぜ、足掛け7年ぶりに復活できたのか。