日本最北の駅そば、復活させたのは「博多のミュージシャン」

 現在の経営者である萩原和浩さんは、遠軽駅から普通列車で40分ほどの遠軽町白滝(旧・白滝村)の出身。遠軽高校への通学の際に、旧・北一そばをよく食べていたという。

北一そばの外観

 その後、萩原さんはミュージシャンとして九州・博多に拠点を置いて活動するも、体調不良のため療養で遠軽に戻り、2023年に遠軽駅前に弁当店「〆乃舎」を開業している。かつて遠軽駅構内にあった「北一そば」「岡村弁当店(駅弁販売)」「キヨスク」はすべて消滅しており、駅や待合室はすっかり寂しくなっていたという。ここで萩原さんは、学生時代の思い出の味である「北一そば」の復活を思い立つ。

 とはいえ、誰がやっていたのかすら分からない。何とか「そば屋のおばちゃん」であった勝本さんの家族とつながり、了解を取り付けて、自己資金とクラウドファンディングで開業資金を調達しつつ、関連各社への調整に駆け回る。

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 幸運だったのは、ふだんは博多で音楽活動をしている自身に代わって店長を務める人材の渡部みゆきさんを見つけられたことだ。福岡県生まれの渡部さんは、自衛隊に勤務するお子さんの関係で、駐屯地がある遠軽に移住したばかりだった。知人の紹介を経て北一そばで働くこととなったという。

店長の渡部さん。極小の厨房ながら、次々とそばを提供して地域の人にも愛されている

 渡部さんはもともと西表島で30年ほどゲストハウスを営業していたこともあり、そばだけでなく料理全般はお手の物。見た感じ1坪少々しかない北一そばの厨房をフル活用して、ジビエそばを開発した。ユニークなキャラクターで地元の人々や駅員さんも常連として取り込んでいる。ここまで店を切り盛りできる人材が、たまたま遠軽に移住していたこと自体、奇跡としか言いようがない。

駅そばに次いで駅弁も復活するか

 さて、この北一そばは、改札内のホーム側・改札外のどちらからも注文できるという、中津川駅と同様のスタイルを採用している。とはいえ、ホームと店の間に柵があり、行き交えない。現在、物置状態だ。

 ただ、汁物でなければ、ホームでの販売はできるようで、将来的には特産品のタコを生かしたご飯ものなどを販売することも考えているという。2015年の「岡村弁当店」撤退で消滅した「遠軽の駅弁」が、駅そばに次いで復活するかどうか。今後の北一そばの推移を見守りたい。