理想の家族像

 管理職研修では、チームづくりや自己理解のグループワークを通して、「人を育てるには、まず、自分を知ること」だと気付かされたという。

「私は、自分が理想とする家庭像を無意識のうちに夫に押しつけていたんだと、やっと理解できました。『もっとちゃんとして』『普通はこうでしょ』『どうしてできないの?』その一言一言が、夫の心を削っていたのかもしれません。今思えば夫の言う通り、もっと子どもと一緒に過ごす時間にお金を使ってもよかったと思います。節約しすぎて夫へのお小遣いを必要以上に絞ったり、一方で子どもの習い事に10万もかけたり……。そんな家だったので、夫はだんだん自分の居場所を失っていったんだと思います」

 6歳の時に両親が離婚した佐伯さんにとって、「家庭」や「母親」は、ずっと手探りだった。記憶の中にある「母親」は、厳しい人だった。そして6歳から成人するまで主に育ててくれた父方の祖父母もまた、厳しい人たちだった。佐伯さんは無意識に母親や父方の祖父母に似てしまっていたのだ。

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「だから『完璧な母親でいなきゃ』『子どもを国公立大学に行かせたい』という理想を自分に課し続けていたのかもしれません。夫は毎週のように出かけたがり、その分ガソリン代や外食代も嵩みます。私は年に一度家族旅行ができれば良くて、出かけすぎるとその分、勉強が疎かになると考えていました。この『違和感』に、しっかり夫婦で向き合って話し合うことができていなかったのです。夫が出て行った後、泣きながら15年を振り返り、私に足りなかったのは、『夫や子どもたちと、お互いの気持ちを話し合う時間』だったのだと初めて気がつくことができました」

ハラスメントの連鎖は止められる

 佐伯さんの息子は高専卒業後、推薦で公立大学へ編入し、今年から通信会社のエンジニアとして働いている。娘は遠方の私立大学に入学し、寮生活を送っている。

 夫とは別居から5年後に完全に離婚。5年かかったのは、それまで住んでいた一戸建てを売却し、そのお金で夫は慰謝料を支払い、佐伯さんは新たに家を建てていたからだ。