モラハラは、言葉や態度によって相手を精神的に追い詰める行為を指す。厳しい母親や祖父母を見て育った佐伯さんは、「家庭」や「母親」とはそういうものだと無意識に刷り込まれ、同じような「母親」となり、同じような「家庭」を築いてしまった。
娘に「ハラスメントの連鎖」について話したとき、娘はこう返した。
「大丈夫。サザエさん見て学んでるし、大学で人間心理の講義を受けてるから。ママは結婚も子育てするのも早すぎたんだよ。まだ子どもだったんじゃない?」
佐伯さんは娘の成長を感じるとともに、「私みたいな大人にはならない」と思えて安堵した。
「私は10代では勉強をし、良い大学へ入り、大手に就職することが効率の良い生き方だと信じていました。でも、『効率よく生きてほしい』なんて親のエゴだし、子どものためになりません。生き方なんて子ども自身で考えさせればいい。それがたとえ遠回りだとしても、親から十分な愛情をもらった子であれば、実りある人生を送れるはず。今はこう考えられるようになりました。私自身、これからももっと自分を振り返ることで、モラハラ時代の罪滅ぼしを、元夫や子どもたちに精一杯していきたいと思っています」
看護師の管理職研修というきっかけがあったとはいえ、自分で自分にここまでの変化を促せる人はなかなかいないだろう。こうした自己改革ができたからこそ、「夫」こそ失ったが、子どもたちを通じて元夫とも良い関係で居続けることができている。
佐伯さんの新しい人生は始まったばかりだ。
ハラスメントの連鎖は止められる。
