ところが、肥薩線では八代から3駅先の葉木までの14.4kmで朝1往復、夕方2往復の代行タクシーが設定されているだけで、その先の山間部では人吉~一勝地間12.0kmを除いて代行輸送が行われていない。しかも、平日のみの運行なので、旅行者が土日や祝日に乗ることはできない。
さらに、通常の代行輸送であればJRの乗車券が鉄道と全く同じように使えるのだが、ここではノーマルな乗車券だけが有効で、観光客の利用が多い青春18きっぷなどの割引乗車券類は使用できない。
つまり、肥薩線は廃止されていないにもかかわらず、どんな種類のチケットを持っていても、八代から人吉まで、肥薩線のルートを公共交通機関で辿ることはできないのだ。
山間にこだまする“重機の音”を聞きながら線路をたどっていく
八代から自動車を運転して肥薩線の線路を追いかけると、すぐに市街地を外れて球磨川沿いの国道219号線を走ることになる。時折すれ違う自動車の大半は、災害復興工事の大型トラックだ。
八代の隣駅である段駅は、球磨川の東岸沿いに設けられている。川の目の前に代行タクシーのバス停標識が建てられているが、駅付近の集落は線路を挟んで反対側の丘側に固まっている。
片面ホームの小さな無人駅だが、線路内に雑草が生い茂っているようなことはなく、5年も列車が来ないのにきちんと整備されている。いつでも列車が戻ってこられるように、という意思が伝わってくるような気がする。
もっともそれは駅の周辺だけで、少し離れたところにある踏切は遮断機のバーが取り外され、踏切から少し離れた線路は緑の雑草におおわれている。
線路際に立つと、聞こえてくるのは川のせせらぎではなく、川の両岸のあちこちで行われている復興工事の重機の音ばかりだ。






