女性として、今の日本に思うこと
検察の仕事と行き来しながら、アジ研には合計3度勤務しました。2013年からはしばらく所長も務めています。2014年からは、2年間、法務総合研究所の所長も務めていました。
法務総合研究所の所長だったときに、私はICCの裁判官選挙に立候補するよう要請を受けました。私に白羽の矢が立ったのは、いちおう英語が使えて、法務総合研究所、アジ研での勤務経験があったからだと思います。そう考えると、思い切ってアメリカに留学したことが、私のキャリアを切り拓いてくれたと言えるのかもしれません。
ちなみに、アジ研の所長に女性が就任したのは、私が最初でした。法務総合研究所の最初の女性所長も私です。かつて事務官の方がくれた「何か得意分野をつくったほうがいい」というアドバイスは、的確だったなと今になって思います。
「いまの世の中も『虎に翼』と同じだよ」。ICCは裁判官のうち18人中11人が女性
ただ、私のようなケースがあるにしても、全体の状況を見れば、日本における女性の職業的な地位は相変わらず低いままです。ここには忸怩たる思いがあります。私は普段、こうした問題をあまり大きな声で主張することはありません。無意味な対立の構図に引き込まれてしまう恐れがあるからです。でも、社会がなかなか変わらないことへのもどかしさは強く持っています。
最近、いとこと会ったときに、『虎に翼』の話題になりました。『虎に翼』は2024年に放送されて反響を呼んだNHKのドラマです。日本の女性で初めて裁判所長となった三淵嘉子さんをモデルにした物語で、ご覧になった方も多いのではないかと思います。
いとこは言っていました。
「いまの世の中も『虎に翼』と同じだよ」
彼女は私の2歳下で、大学を出たあと国税庁に入って、いわゆる「マルサ」をやっていた。ところが、女性はまともなマルサの仕事をやらせてもらえなかったそうなんですね。それで名古屋市役所に転職して、幹部の一人として立派に定年まで勤めあげた。そんな彼女の実感として、『虎に翼』で描かれる女性の困難は、今の世の中でも基本的には変わらないと。実際、変わっていない部分があるからこそ、多くの女性が共感してヒットしたのかもしれません。
ICCのスタッフは女性が半数を占めています。裁判官は18人中11人が女性です。そのような環境にいる現在の私からすると、日本の遅れはあまりに際立っているように思えます。
もっとも、現在日弁連の会長も検察庁のトップである検事総長も女性です。が、これも史上初めてのことです。少しずつ日本も変わっているのかな、とも思いつつ、「史上初の女性○○」と言われない、どんな職業であれ、どんな役職であれ、女性がごく普通にいる日が来てほしいなと思いますね。
