米離れ加速のきっかけになった一冊の本
米の収量の減少を社会も後押しした。1958年には慶應義塾大学教授の林髞(はやしたかし)氏が『頭脳 才能をひきだす処方箋』のなかで白米を食べることについて「子供の頭脳の働きをできなくさせる」「せめて子供の主食だけはパンにした方がよい」と記すなどしたこともあり、米離れが加速。私はまだ子どもだったが、当時の給食にパンが出ることも増えたので、そのときのことをよく覚えている。
そして米の消費量は着実に減っていった(図4)。
2000年代にその傾きが緩やかになったとはいえ、減少傾向は今なお続いている。起きるべくして起きたのが今回の米価格の高騰だと私は考えている。
それにしても価格の値上がりはすさまじい(図5)。
2年前の価格から2倍を超えてしまっている。当然、家計を直撃し、総務省が発表した24年のエンゲル係数は28.3%と1981年以来、43年ぶりの高水準に達した。米価格の高騰が影響しているのは疑うべくもない。
このグラフを見て思い出した方もいるかもしれないが、24年の夏にも一時、米が品薄になった。
ただこのときは新米が出回る季節まであと少しで、農水省も「新米が出回れば価格は落ちつく」との見立てだったが、その後も価格の上昇は止まらなかった。連日ワイドショーなどで取り上げられるようになり、備蓄米が放出、それでも効果は微々たるものであり、25年5月には失言もあって農水大臣が更迭(こうてつ)されるまでになった。
日本は米の輸入に関しては1kgあたり341円と高関税をかけており、主食として食べる米はほとんどが国産だ。WTOとの協定に基づき、市場の一部は開放しているが、輸入米は米粉や醤油などの加工用や飼料用がほとんどで、原産国はアメリカ、タイ、オーストラリアなどだ。
それが価格高騰下では外国産米の方が安くなり、大手スーパーではカリフォルニア産の「カルローズ」が販売されるなど、主食として食卓に上るようになった。「安くてありがたい」と好意的な受け止めも見られる。このままではさらに国産離れに拍車がかかってしまうのではないだろうか。

