椎名林檎や星野源などにも影響を与えたと言われているバンド「NUMBER GIRL(ナンバーガール)」の元ドラマーであり、現在は「VOLA & THE ORIENTAL MACHINE」のボーカル・ギターを務めているアヒト・イナザワ(52)さん。一度は上京したが、バンド活動に限界を感じたのをきっかけに、地元の福岡に拠点を移して家業の会社で役員も務めている。

 会社で働き始めた当初は、名刺交換のやり方も分からないまま現場に放り出され、たくさん苦労したと振り返るアヒトさん。最近も過労のストレスで激ヤセしたり、全身が痙攣して歩けなくなったりとさまざまな苦労をしている。そんなアヒトさんの「セカンドキャリア」について、話を聞いた。

ミュージシャンから会社員への転身には、さまざまな苦労があったという ©文藝春秋/釜谷洋史

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――NUMBER GIRLとして上京してから、福岡に戻ったのはいつごろですか。

アヒト・イナザワさん(以下、アヒト) 2011年ですね。VOLA & THE ORIENTAL MACHINEのレコード会社との契約が切れて、バンド活動に限界を感じたことがきっかけです。

――VOLAは海外有名バンドにも評価されていましたし、音楽フェスにも参加していましたが、アヒトさんは限界を感じていたんですね。

アヒト そのような状況でも契約がスパッと切られたんですよ。当時発表したアルバムが、僕の中で「今まで出したもののうち、一番の力作」と自信を持っていたのですが……。結果的にそれも通用せず、音楽で食べていくのは時代的にも無理なのかなと思うようになっていました。

 当時はディスコサウンドで使われるような「4つ打ち」と呼ばれるジャンルが流行り始めて、「僕らの時代ではない、これはもう太刀打ちできないな」と。ただ、VOLAのメンバーには「東京に通いながら、活動は続けたい」と伝えていました。