「自宅から目と鼻の先にあるとはいえ、突然見知らぬ施設に連れてこられ、父は目を丸くしていました。私は、『ここは病院関連の療養施設で、病院のベッドが空くまでの待機場所なのよ』と、嘘の説明をしました」

 その施設長が親戚の親しい友人だったこと、スタッフたちが親身になってサポートしてくれたこと、そして地域の自治会役員などを引き受け、長老的な立場だった父親がその施設の利用者となることを、施設経営者が歓迎してくれたことが功を奏し、父親は快適に療養をスタート。

自宅から徒歩

 15分ほどの距離だったため、この頃は母親1人で自転車に乗り、面会に行くことができた。澤田さんは父親が入所している間、1人になる母親のため、頻繁に母親の様子を見に実家に通った。

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 父親の帯状疱疹は1ヶ月ほどで軽快。その後は自宅から施設に通い、日帰りで食事や入浴、機能訓練などを受けられるデイサービス(通所介護)を利用した。

「あの思い出したくないほど絶望的だった1週間で、我ながらよく全てを決行できたと思います。こんな時、口だけ出してお金を出さない兄弟姉妹がいなくて、一人っ子で良かったと心底思いました」

 だが、痛みが薄らいだ父親は、その施設が病院でないことを認識したのか、通所を続けることを嫌がるようになってしまう。

 7月。澤田さんは、数年前から夏になると必ず体調不良に陥り、入院して栄養剤を点滴していた父親が心配だった。「帯状疱疹が治ったばかりで、体力が落ちている時に何かあってはいけない」「介護保険で体力回復のサポートができないか」と考え、ケアマネジャーに相談することにした。

スーパーヘルパー

 父親が通所を嫌がるようになったことと併せて相談すると、ケアマネジャーはホームヘルパーの利用を勧めた。ホームヘルパー(訪問介護員)は、被介護者の自宅を訪問し、食事、排せつ、入浴、家事などの身体介護や生活援助を行い、利用者の生活や、心身の自立を支援し、重度化を防止する在宅介護の専門職だ。

 しかし澤田さんは、実家の中に、プロであってもよく知らない他人を入れることにためらいがあり、両親が受け入れられるだろうかという不安も大きかった。