初対面の日、澤田さんが夫とともに実家へ行くと、訪れたヘルパーは男性だった。澤田さん夫婦は一抹の不安を覚えたが、それはすぐに消し飛んでいた。彼はたちまち父親の心と胃袋を鷲摑みにし、母親の信頼を得たのだ。
「彼が来てくれるようになってから、父の血色がみるみる良くなりました。彼は調理師の免許を持ち、数々のレストランに勤務した経験のある、市内で最も長いヘルパー歴を持つスーパーヘルパーでした。誠実に仕事をしてきた彼は、役所からの信頼も厚く、豊富な人脈や介護知識があり、私たちは何度も救われました。最初はためらいましたが、家に介護ヘルパーを入れることを早期に決断できて、本当に良かったと思います」
彼は、「僕が行くと、利用者さんは体重が増えちゃうんですよ~」と言って、用意された食材で手際良く美味しい料理を作ってくれた。
入浴が大好きな父親は、彼の車が到着した音がすると、いそいそと服を脱ぎ始めた。彼は玄関を上がってくるなり脱衣所へ向かい、ズボンを脱ぎ、父親の背中を流してくれる。
父親の入浴が終わると、「はーい、おかあさ~ん、お父さんの身体拭いて~」と、母親に声がかかる。母親が父親の体を拭いていると、彼はそっと澤田さんに耳打ちする。「お父さんのパンツが汚れていたから、お風呂でサッと洗っておきました。後で洗濯機を回してください」。そして台所へ行くと、「あ、栗がある! 今日は栗ご飯にしましょう!」と言って栗を剝き始める。
「入浴介助に汚れた下着の下洗いに栗ご飯……。どれも私にはできないことです。彼に感心し、のめり込んでいく両親や私を見て、ケアマネジャーさんが、ヘルパー主導の介護に疑問を呈し始めましたが、私はケアマネさんのほうを変えました。ケアプラン(介護サービス計画書)を作るケアマネさんよりも、実際に介護をしてくれるヘルパーさんの意見と知識のほうが、私には重要だったのです」
一方同じ頃、日頃の言動に不安を感じた澤田さんが母親を病院に連れ出し、脳の検査を受けさせたところ、「アルツハイマー型認知症」と診断される。機能回復のため、週1回のデイサービスを利用することになった。
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この続きは、『しなくてもいい介護』(朝日新書)に収録されています。