老老介護の限界

 2022年になると、天ぷらや煮物が得意だった母親は見る影もなかった。スーパーに買い物に行っても、もうお惣菜売り場にしか行かない。

「同じものを買ってくる問題の対処法は、誰かが一緒に買い物に行くことです。カゴに入れるか入れないかのタイミングでこっそり元に戻しても、母はすぐに忘れてしまうので気づきません。他に注目させてこっそり元に戻すのがコツです。味付け肉をたくさん買ってしまった場合は、一度洗ってつけられている味をなるべく落としてから炒めると美味しくなります。レタスの時は、レタスチャーハン、レタス餃子、レタススープ、レタスの炒めものと、とにかくいろいろな料理にしました。普段料理をしている人なら当たり前にすることかもしれませんが、父にはできないので、私が帰省した時はそうしていました」

 そして2023年夏。父親が頻繁に意識消失を起こすようになった。

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 田村さんの妹の子どもの演奏会に行った際、椅子に座った状態でいびきをかいたまま反応がなくなって救急車で搬送されたり、父親が母親を乗せて車の運転中、突然意識消失を起こしてガードレールにぶつかったり、会社の駐車場の車内で意識消失し、兄夫婦が気づくも「寝ている」と思われ、後から意識消失と判明するなど……。

 幸いなことに、いずれも大事には至っていなかったため受診が遅れてしまったが、あまりに頻繁に起こるため、ついに受診すると、「睡眠時無呼吸症候群」と診断された。まずは就寝時に鼻マスクをつけ、睡眠中に機械で圧力をかけた空気を鼻から気道(空気の通り道)に送り込み、気道を広げて無呼吸を防止する治療法である「持続陽圧呼吸療法(CPAP)」を受ける。

 その後、心臓カテーテル検査を実施すると、異常なほど不整脈が出現していることが判明。

 不整脈の治療と埋め込み型心電図の治療を行うことが決定するが、田村さんの実家の近くには大きな病院がないため、一番近い他県の大学病院に4日間ほど入院することに。

 その間、認知症の母親が実家に1人になってしまうため、田村さんは姉妹で母親のケアをしながらデイサービス探しを開始した。

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 この続きは、『しなくてもいい介護』(朝日新書)に収録されています。

次の記事に続く 働きながら家事育児も担う男性(50代)の日常を一変させた“母親の介護”の苦労「子どもたちにチックが出るくらい怒鳴ってしまうように…」