そして10月14日。三井さんは、「最近母がおかしいのは、ストレスがたまっているせいだろう」と思い、母親をカラオケへ連れて行く。しかしその楽観的な予想は、無残にも打ち砕かれた。

「母は、同じ歌を初めて見つけたように喜び、同じ歌ばかり何度も何度も歌っていました。もう認知症を認めるしかなく、『なぜもっと早く気付いてやれなかったのか』という後悔と不安で、胸の中に冷たいものが流れ込んでくるようでした……」

 三井さんはすぐにかかりつけ医に相談。大病院の精神科を紹介してもらい、5回ほど通院して検査を受けると、12月後半に認知症の診断がおりた。

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 2017年1月4日。役所の仕事初めの朝、介護申請を出す。1月半ばに認定調査を受け、数週間後、「要介護1」の通知を受け取った。

 三井さんはデイサービスを5~6施設見学し、3月から週3日利用を開始。デイサービスがない日にはヘルパーを入れた。

「母は、知らない人が家にあがるのを嫌がるので、ヘルパーさんは週1日から慎重にはじめることにしました」

 三井さんは仕事や家事育児の合間に時間を見つけては、介護のことを必死に学んだ。

一変した日常

 2015年に妻が職場復帰して以降、メインで3人の子育てを行う三井さんの日常は、てんてこ舞いだった。朝、3人の子どもたちを起こして朝食をとらせ、小学校や保育園へ送り出す。仕事が終わるとすぐに夕飯の支度を始め、その合間に学童や保育園へ子どもたちを迎えに行く。

 帰宅すると子どもたちは、三井さんが台所に立っている間も「お父さん、お父さん」と競うように話しかけてくる。かわるがわる話を聞いてやりながら、やっと夕飯となれば、食べ散らかす男児2人の口周りや足元を拭き、まだオムツの末っ子が「うんちぃ~」と言えば、食卓の横でオムツを替える。食事が終われば入浴だ。上がったら保湿をし、湿疹があれば薬をつけてやる。寝る前に歯磨きをさせると、ようやく三井さんは休むことができた。寝室で「お父さん、お父さん」と、くっついてくる子どもたちと少しだけ遊び、21時には一緒に寝てしまう。