母親に捨てられた過去

 母親は、三井さんがまだ10歳の頃、夫の暴力から逃れるために、5歳上の姉だけを連れて家を出ている。

 結局夫に見つかって連れ戻されたが、その度にまた家を出た。

「父は、私を手掛かりに母を探すため、電話に盗聴器を仕掛けたり、探偵を雇ったりしていました。当時はDVなどという言葉もなく、社会的な理解やフォローもなく、離婚調停どころか、生きるためには逃げるしかない状況でした」

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※画像はイメージ ©yamasanイメージマート

 父親が2人を連れ戻すのを諦めてから10年近く過ぎた頃、三井さんと父親が暮らす家に姉が訪れた。婚約者を連れて、父親に結婚の報告に来たのだ。

「父は、姉から急に結婚の話を聞かされて面白くなかったのでしょう。その夜は普段よりも荒れました。私は子どもの頃から父が怖くて、逆らったり、喧嘩したりしたことは一度もなかったのですが、その夜は何故か我慢ができなくなり、父が寝てから荷物をまとめて家を出て、母が親戚名義で借りて暮らしている団地に行きました。翌朝、私がいないことに気付いた父は、きっとショックだっただろうと思います。今更ですが、後悔しています」

 姉と三井さんが独立した後、母親は父親と再び連絡を取るようになったらしいが、父親が女性関係で再び荒れ始めたため、母親は完全に父親を見限ったようだ。

 父親は酒浸りになり、60代前半で肝硬変により亡くなったという。