「小規模多機能型居宅介護」
結婚後、長年音信不通だった三井さんの姉は、実は同じ県内に住んでいた。母親の認知症判明後、三井さんから連絡し、話し合いの末、母親の通院など、介護の手伝いをする約束をする。その後姉は、月1回ほど母親の通院の付き添いを担っていた。
2017年の秋。母親の認知症が悪化し、ヘルパーへの暴言、デイサービスの拒否、物忘れに拍車がかかり、ついにケアマネジャーもお手上げ。「在宅生活は限界にきていると感じます。施設入所が望ましい状況と考えます」と言われてしまう。
とはいえ、それでなくても多忙な三井さんの場合、費用の問題をクリアし、認知症でも受け入れてくれる施設を短期間で探すのは容易ではない。かといって、3人の子育てをしながら働く三井さんには、片時も目が離せない状態の母親を同居で介護することは不可能だ。
途方に暮れた三井さんが役所に相談すると、「小規模多機能型居宅介護(小多機)」を勧められた。
「小多機」は、同じ事業所が「通所(デイサービス)」「訪問(ホームヘルプ)」「泊まり(ショートステイ)」の3つのサービスを一体的に提供する介護保険制度の地域密着型サービスの一つだ。
通常、デイサービスや訪問介護、ショートステイなどの介護サービスは、必要な利用者が事業所ごとに契約し、状況の変化に合わせて利用者自身で変更する必要がある。しかし「小多機」は、1施設と契約すれば「通所」「訪問」「泊まり」すべてのサービスが利用できるため、いちいち個別に契約する必要がなく、見慣れたスタッフと場所で過ごすことができるため、被介護者もストレスが少ない。
さらに、「小多機」は、サービスの組み合わせや利用回数に制限がない月額定額制。独居で年金収入のみの母親は、介護保険サービスの負担額は1割。要介護認定を更新して要介護2になっていたため、ひと月約1万5千円で時間を気にせず利用が可能だ。
「泊まり」の場合は宿泊する部屋代などが別途必要にはなるが、一人暮らしで目が離せない状況に陥っていた三井さんの母親にはぴったりのサービスだった。
三井さんは、すぐに2軒の「小多機」を行う施設と面談し、そのうちの1軒の施設の利用を決めた。
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この続きは、『しなくてもいい介護』(朝日新書)に収録されています。