裁判所に連日詰め掛けた大量のメディア、SNSインフルエンサー、そして全米のファンは2人の関係性を解き明かそうとした。

 ディディは絶大な影響力、富、名声によってキャシーを支配していたのか。キャシーは別れることによってディディからの暴力による報復、撮影されたフリークオフの動画をリベンジポルノとして公開されること、ディディからの経済支援を失うことを恐れたのか。さらにレコード会社CEOであるディディに背いてシンガーとしての将来を無くすことを恐れたのか。はたまた、2人は精神的に極度に不健全な相互依存に陥っていたのか。

キャシーが証言台で涙ながらに語ったこと

 裁判の冒頭4日間にわたって証言台に立ったキャシーは、今はディディの元を離れて幸せな結婚生活を送っており、夫との3人目の子供を妊娠中だった。しかし臨月の大きなお腹を抱えたキャシーは当時の苦難を思い出し、涙を流しながらフリークオフと虐待について赤裸々に語り続けた。

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現在のキャシーと家族(キャシーのインスタグラムより)

 他方、ディディはニューヨークを基盤に音楽、ファッション、カルチャーの一大帝国を築き上げたパワフルなCEO。自ら証言台に立つことは敢えて避けたものの、被告として毎日裁判所に出頭し、過去に自分と関わった多数の証言者—キャシー、キッド・カディ、男性エスコート、複数の元アシスタント、ディディが昨年9月に逮捕されるまで付き合っていた最新の恋人など—の証言を表情を変えることなく淡々と聞き続け、時には弁護士に指示を出していた。

ディディのXより

 常に「キング」を自称してきたディディは、自身の裁判においてもキングを演じていたのだ。

ディディがCEOを務めるレコード会社からデビューしたキャシー

 キャシー(本名:カサンドラ・ヴェンチュラ)は、169cmの長身と細身の体型、母親が黒人とメキシコ系のミックス、父親がフィリピン系であることからのユニークな美貌を持ち、10代でモデルとなった。

 音楽の才能にも長けたキャシーはR&Bシンガーを目指した。2005年、当時19歳でレコードレーベル「バッドボーイ・レコーズ」のCEO、ディディと出会い、アーティスト契約を結ぶ。翌2006年にデビューアルバム『キャシー』をリリース。このアルバムにも収録されたシングル「Me & U」は世界的ヒットを記録した。

キャシーのインスタグラムより

 2007年、キャシーは21歳の誕生日に当時37歳だったディディに誘われてディナーを共にし、そこから交際が始まる。ディディの発案により、翌2008年よりフリークオフを始める。