ジウンは「狂ってしまいそうだったけど別れることができなかった」と言った。かれをとても愛していたし、相手も自分を愛していると思っていた。ジウンの姉をより怒らせたのは、ジウンが「わたしのせい。わたしがそうさせたんだよ」と言ったからだった。最初のカレシを回想していたジウンは言った。
「でも薬を飲んで、時間もたって歳をとって(あいつが)クソ男だったんだってことがわかってきました」
わたしたちが出会った2019年12月、ジウンは正式に訴訟を起こすため法的証拠を集めている最中だった。
これが父親か?
家族に関する記憶は混乱に満ちている。最も近くで見守ってきた人だから、その悪いところだけではなくいいところも皆知っている。女たちは自身のうつを説明する過程で、幼少期の記憶を掘り起こした。ジウンが恋人たちと良好ではない関係を続けるしかなかった理由を知るために記憶を遡ってみると、その中心には父親がいたと言った。
「父という存在がよくわかりません。わたしにとってはただの中年男でした。わたしとも寝る男。わたしには毎日セックスばかりする人に見えてたから」
父親は1週間に1回ほど家に現れた。酒を飲んでこっそり入ってきて、また出ていった。来るたびに母親とセックスするのが聞こえた。父と呼ぶにはあまりにも遠い存在だった。
父親はジウンの部屋のドアを断りもなく開けた。ドアが開く前に玄関の電気がつく音がして、嫌でおかしくなりそうだった。部屋に入ってくると父親は無理やりジウンを抱きしめてキスをしようともした。「5分だけこうさせてくれたら何か買ってあげるよ」いつだか一度、酒に酔って舌を突っ込んできたことまであった。
「眠っているわたしをじっと見ていたと思ったら『ジウン、おまえいい体してるな』なんて言うんです。何これ? これが父親?」
ジウンは父親が一番「かわいがっている」子だった。正確にはわからないが、ジウンの知らない異母きょうだいがいるらしい。父親は冗談のように「俺が面倒見なきゃいけない家族はおまえらだけだと思ってるのか?」とも言った。居酒屋にジウンを呼び出して横に座っている女と挨拶させようともした。
「この子、本当真面目な子でさ」
