「わたしにはどれも命綱に見えるんです」

 ジウンは暴力的な状況にあっても自分の過ちを探してはカレシに同情した。自身ではなくカレシを憐れんだ。

「いつだか一度、首を掴まれてふっとばされたんです。(最初は)びっくりしたんですけど、それもまた慣れちゃうんですね。『オッパがわたしをそんなふうに扱うんだったら、本当にわたしをぞんざいに扱う人たちのところに行くから』って夜のお店で働きもしました。

 すると(オッパが)夜の店に女を呼んで、その席にわたしを呼ぶんです。わたしも腹が立って、他の女が来てたんでしょと訊くと『おまえ、こういうとこで働いてたことバラしたいのか?』って言うんです。そしてタクシーを拾って、わたしを帰そうとしました。わたしにはそれが一番怖かったんです。『乗らないのか?  乗らないのかこのイカれ女?』って、本当に怖かったです。

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 だから逃げようとしました。後ろから追いかけてくるのでおかしくなりそうでした。突然わたしの首を絞めながら罵倒するのを見て、周りの人たちが集まってきてオッパを止めながらわたしに逃げろと言いました。そのとき『あ、オッパがあんなふうに悪い人扱いされちゃいけないのにどうしよう?  わたしが間違ってたんだ』と思いました。

 逃げるのをやめようと思ったんですが、わたしがその場を離れなかったらオッパが解放されなさそうだったので、とりあえず逃げるふりをしてあとから連絡しました。オッパに『おまえのせいであんな扱いをされるんじゃないか』と言われ、ごめんなさいと言ったらさらに罵倒されました。

 そうしてこうしてまたモーテルに連れて行かれました。泣いてると、うるさいと罵ってあっちで泣けと言われました。ベッドの下で静かに泣いてたら(かれを)殺したくなってきて。ああ、本当に殺してしまおうかって思いました。

 次の日オッパが平常心を取り戻したら大丈夫だろうって思ったんですけど、何も言わずに仕事に行っちゃったんです。電話して謝らないのかって言ったら、『おまえ、俺は出勤しなきゃいけないのに、今この朝の時間帯にそんな頭に来るような話をするのか?』って。こんなことの繰り返しでした」

 ジウンは最初のカレシと別れたあと、かれを忘れるためにほかの人との交際を繰り返した。そのたびに不幸な経験が繰り返された。もうやめにしようと、水に飛び込んで死のうとした日、警官たちがジウンを止めた。その中でジウンに優しくしてくれた警官から次の日連絡が来た。会って酒を飲み寝た。それを知ったジウンの姉が怒ってその警官に連絡し、驚いた警官は豪雨の中、深夜3時の駐車場にジウンをひとり置き去りにした。ジウンが一番恐れていた状況だった。また捨てられたと思った。

「わたしにはどれも命綱に見えるんです。ある男がどんなにおかしくても、ちょっとでもいいところがあればその部分だけ見ようとしました。生きなきゃいけないから。それがわたしの希望かもしれないから」