お金が必要なときは母親と弟の代わりにジウンが懸命に稼いできた。ひとりで父親に立ち向かいもした。
「父が母に対してひどいことを言うと、母が泣きながらわたしたちの部屋に来るんです。わたしは飛び出していって罵って。昔は本当に母を守るのがわたしの仕事だと思ってました。だけど母はそれをちょっと利用してたんですよね。父にアバズレと呼ばれたと日記に書いて、それをわざとわたしに見えるように置いておくとか、そういうふうに」
父親は時たま家族に金を持ってきた。しばらく間があいて、少し前には残った財産を渡して、自分はもう年老いて疲れたから仏教に帰依すると言った。父親の話をしながらジウンは微妙な表情を浮かべた。かなり独特な性格の人。とても面白い人。ある部分では尊敬するし自慢でもある人。けれど何よりも遠い人。
「よくわかりません。変なふうに覚えてるんです。矛盾が多いです」
ジウンは父親のことを考えるとそう思うと言った。今では家族と父親の話を冗談にできるほどにもなった。
「今どこかな? パク・サンムさん(父)を探してみよう、って住民票をとってみるんです。寧越にいるね。土地でかいね。穴掘って修行してるらしいって噂だよ。本当に変な人、ははは」
愛じゃなくて執着のために付き合っていた
7ヶ月後に再会したジウンは、以前よりもはるかに健康に見えた。初めて、おばあさんになった自分の姿を想像して、自身のうつを見守る周りの人の気持ちがわかるようになったとも言った。最初のカレシに対する考えも少し変化した。
「愛じゃなくて、わたし自身に対する執着のためにあの人と付き合っていたんだと思います。その関係から成果を得たかったんじゃないですかね。別れるのってある意味失敗じゃないですか」
ジウンと対話をするたび、うつに関するとても鋭い洞察力を見せてくれた。小さい頃に父親から受けた家庭内暴力と、大人になってから受けたデートDVまで。まるで、大したことではないというようにさらっと話をしてくれたジウンはわたしに言った。
「うつ病というものを初めて知ったときは、それに埋没してしまうんだと思います。うつ病の症状に自分を合わせていくようになって。今ではもうそんな考えは全部捨てちゃいました。わたしの気分になんの名前もつけないことにして。うつ病も長引くと終わりが見えないですね。毎回新しいことを知るんです。愛だと思ってたのに違って、人生全般を解釈しなおしてまた違う糸口を見つけることになります。結局、一番よく理解できるようになるのはわたし自身のことです。わたしっていう人を色んな角度から見るから。これから先の人生、全部そういう時間になると思います」