――それは次郎が病院でつけていた日記帳に、速記で書かれていた。義母が置いていった速記の教則本を見ながら、のぶは一文字ずつ読み解いていく。夜から読み始め、朝が来る頃に読み終える。「のぶへ 自分の目で見極め 自分の足で立ち 全力で走れ 絶望に追ひつかれない 速さで」とあった。

随分前、台本の打ち合わせの席で、「キャッチコピーつけるならこういうことかなって私は思っています」と中園さんに話したことがありました。だから、ああ、覚えてくれていたんだとうれしかったですね。

のぶの足の速さは、史実に沿ったものです。暢さんは一般の方ですから、人物像がわかる資料は限りなく少なく、やなせさんの自伝などから読み解いていくしかありません。その中でもわかったのが、勝ち気で快活な女性だったということ、そして足が速かったということでした。「はちきんおのぶ」と呼ばれていたし、「韋駄天おのぶ」とも呼ばれていました。

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全力ダッシュでもヒロインを選考

――高知新報の試験の合格を告げられ、のぶの口から出たのが「たまるかー」。久々に聞く「たまるかー」を何度か口にし、のぶは走り出した。新しい時代、新しい仕事。胸熱のシーンだった。

のぶが走る姿を見ると、元気が出ますよね。今田さん、どんどん走るのが早くなっているんですよ。

ヒロインの最終オーディションでは残っていた15人全員に走ってもらいました。走りやすい靴で来てくださいと事前に伝え、スタジオの隅から隅まで、走る様子をカメラで撮りました。今田さんは中学が陸上部だったそうで、走る姿が様になっていてカッコよかった。それも含め、のぶは芝居でも一番心を揺さぶられた今田さんがベストだと決めました。

史実として残っていることは、できるだけドラマに反映させたいと思っています。嵩の伯父の寛は育ての親です。やなせさんが影響を受けたことは、著書からも十分に伝わってきます。「何のために生まれて、何をして生きるのか」だけでなく、「絶望の隣は希望」「人生は喜ばせごっこ」など、やなせさんの言葉を寛に託すのはごく自然な流れでした。