2007年、森田富美子さんは78歳で人生最大の決断を下した。

「今から東京に行く」

 突然の宣言とともに長崎から東京に住む娘・京子さんのもとへ“家出”を果たした。富美子さんは、70歳でパソコンを始め、90歳で「言いたいことを言わせていただく」とプロフィールに書いた『(アカウント名)わたくし90歳』をTwitter(現X)に開設した。96歳の今も実体験に基づく“戦争反対”の発信で注目され続けている。

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森田富美子さん©︎文藝春秋 撮影・釜谷洋史

「これからの人生でそれが一番いい道じゃないかと思った」

「私が東京に出てきたのは、これからの人生でそれが一番いい道じゃないかと思ったから」と富美子さんは振り返る。

 長崎には息子たちもいたが、「一緒にいて一番楽しく、どっちかというと一番頼りになる」京子さんのところに行った。京子さんは小さい頃にアトピーや喘息で眠れない夜が多く、富美子さんが抱いて寝かせていた。

「この人(京子さん)がスキンシップが一番あったんですよ。ちっちゃい頃から、肩揉んだりも一番やってくれてましたから」

 東京に来て富美子さんの生活は一変した。

「完全に変わったでしょうね。楽しくて楽しくて。東京に来たばかりの頃は毎日1人で歩き回りました。1日2万歩以上歩く日もありました」

 富美子さんが上京したのは、京子さんがヘアメイクの仕事の傍ら大学を受験し、青山学院大学に通い始めた年だった。富美子さんの家出は、「何をいつ始めてもいい」という京子さんの影響もあるのだろうと富美子さんは言う。

 青学大が家族のための無料公開講座をすると聞くと、富美子さんは、すぐに申込み、通い始めた。

©︎文藝春秋

タブレット、スマホを使いこなし「スマホ依存症」と笑われたことも

 次の転機は90歳の時だった。新型コロナウイルス蔓延による特別定額給付金の10万円で購入したiPadが、富美子さんの人生を変えることになる。

 富美子さんのデジタル機器への適応力は驚異的だ。70歳のとき、京子さんから送られてきたノートパソコンは京子さんが図入りで書いた説明書だけで、次の日にはメールを送信して京子さんを驚かせた。

 今では、タブレット、スマホを使いこなし、「スマホのアプリで買い物をし、血圧、体温、血糖値、排便、歩数、スケジュールなど全て管理している」。京子さんから「スマホ依存症」と笑われた頃もあった。