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自然は意外と弱肉強食ではない

『ツチハンミョウのギャンブル』(福岡伸一 著)

福岡 自然を見ていると面白いのは、意外と弱肉強食じゃないことですね。ダーウィニズムだと優れた個体が生き残るんだけど、実は4000匹のうちから生き残るたった1匹って、能力じゃなくタイミング。ムシの場合はたくさん卵を産んで、そのうちのどれかが生き残って種をつないでいけばいい。個体の優劣は関係ないかのように見えます。

舘野 なるほど。たしかに、生き残るツチハンミョウは優れているというより、運がいい。

福岡 人間は、その1つ1つの命が大切だと思って「文明」を作ったわけですよね。そこが人権の起源にもなっている。でも、生物学を学ぶ意味って、生物がこうだから人間もそれに従えということではないと思うんです。生物はこういう掟で生きているけど、人間はまたちょっと違う価値を見つけた。そういうことを知るために、生物の生きざまを見るほうがいい。

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 また今回舘野さんが描いてくれた装画に戻ってしまうんですが、あのひたすら待ち続けるツチハンミョウの姿に私は、掟に従う生物の孤高の尊さを感じるわけです。待つことができるというのは、未来を信じているということですから。それって、なかなか優れた知性のありかただと思うんですよね。

脳みそ小指の先、でもコモドオオトカゲのすごい戦略

『つちはんみょう』(舘野 鴻 著)

舘野 そう、生物を見ていると、思いがけない「知」を持っていますからね。

福岡 コモドオオトカゲというのがいるんですが、やつらは脳みそなんて小指の先くらいなのに、巨大な水牛を倒すんです。後ろ足を噛み、そこからばい菌が入って水牛がだんだん衰弱していくのを何カ月も待つ。その知性って、なかなかAIでは到達できないものでしょう? コモドオオトカゲが何百万年も継承してきた「集団の知」なんですよ。

舘野 今観察しているオオセンチコガネも多くの人が調べているとは思うんですけど、未だに生活環の詳細は不明です。これだけ糞を調べているのに、幼虫が出たためしがない。仕方なく現在、オオセンチコガネの生態を解明すべく、土建屋みたいな大掛かりな装置を作って観察調査をしています。もう3年目になるんですけれどね。