確率1/4000。ツチハンミョウの途方もない生き残り戦略
福岡 養老先生はマレーシアあたりからビンに詰めた虫を送らせていて、その中に新種がいないかと探しているわけです。「福岡くんも、チョウなんてきれいなものを追いかけているうちは、まだまだだよ」と言われちゃう(笑)。
舘野 うーん、砂金採りみたいだな。あ、これはヒメハナバチの巣だ。コハナバチの発生期であればこのあたりはヒメツチハンミョウがいるエリアです。穴がけっこうあるけれど、これはもう空かな?
福岡 ヒメツチハンミョウの1齢幼虫は、地表に空いているコハナバチの巣穴の入り口に集まり、巣から出てくるコハナバチの新成虫の体に群がって取り付きます。そしてコハナバチと一緒に飛び立ち、訪れた花で掻き落とされる。そこでひたすらヒメハナバチが飛んでくるのを待ち続けるんです。それに運よくつかまることができて、ヒメハナバチの作る花粉団子の中に入れた幼虫のみが生き残れる。その確率、4000分の1か2。まさにギャンブルです。
舘野 ツチハンミョウの幼虫と成虫が同時に見られるのは5月から6月初めごろなんですよ。ちょうど装画の依頼をいただいたのがこの時期で、ものすごくタイミングがよかったんです。
虫好きも普通種で満足しているうちが……
<小1時間歩いて、山頂に到着>
福岡 日が差してきた。チョウは太陽を目印に飛ぶから、そろそろ出てくるかな。こういう開けた場所はチョウたちが行き交う交差点になるので、きれいなチョウが来そうだぞ。
舘野 しかし、虫好きも普通種で満足しているうちが一番ですよね。
福岡 そうそう。まあ、誰でも最初はきれいな色だったり、フォルムに惹かれて虫が好きになるわけだけど、そういうわかりやすいメッセージから、かそけきメッセージに反応するようになっていく。シデムシやガロアムシ、ツチハンミョウみたいに、自分のニッチを見つけて、そこで楽しむようになるんですよね。
舘野 あー、私のことだ(笑)。
さあ、福岡先生、小1時間ほど、本気モードで虫採りをしましょうか。