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虫採りにおけるオトナの流儀とは

<あっという間に舘野さんの姿は木立の中に消えてしまう>

福岡 あ、クロアゲハ発見。(しばらく網を振り回すが捕獲できず)こういうときは、ひたすらじっと待っていると、降りてきてくれるんだよね。アレが採れたらうれしいな。一番採りたいのはミヤマカラスアゲハ。私の好きな大型美麗種です。(網を持って走る)何か採れたぞ。小さいハチと、この鼻くそみたいな緑色のは、養老さんの好きなゾウムシだ(笑)。

<チョウを待っているうちに、くぬぎの切り株にいたコクワガタ発見>

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福岡 (虫かごに入れながら)舘野さんが戻ってきたら見せよう。私たちはキャッチ&リリースの精神でやっているので、自然を損なってしまうわけじゃない。うつろう自然の姿を一瞬だけ手元に引き留めて見極めたい、そして手放す、というのがオトナの昆虫採集なので、あまり目くじらを立てないでほしいんです。自然って、絶対に毎日異なるわけですよ。そこがスマホゲームと違うところ。といっても、今の子供たちは圧倒的にスマホのほうが好きなんだけどね。昆虫採集なんて、誰も見向きもしない。

コクワガタ発見 ©三宅史郎/文藝春秋

舘野 (戻ってきて)何か採れました? おっ、コクワガタだ。僕の方は、ミズイロオナガシジミ! ススキの葉先に何匹か止まっていましたよ。

福岡 あ、ゼフィルス!(通称「ゼフ」)

里山のゼフィルス、ミズイロオナガシジミ ©三宅史郎/文藝春秋

死体や共食いのシーンを描く理由

<2人のおじさんが捕虫網を持って休んでいると、山頂の休憩所なのに誰も近寄ってはこない>

福岡 舘野さんの絵本は、どれも自然のシビアな姿が描かれているじゃないですか。ヒメハナバチの花粉団子の中に2匹入り込んだツチハンミョウの幼虫が、まずハチの幼虫を食い殺したあとに、仲間の一方を殺し、1匹だけが生き残るとか。

舘野 あれも期待していたわけじゃなく、観察していた花粉団子の上で、たまたま目撃したことなんです。観察していると、虫はいつも予想を越えてくる。私の絵本の物語は、すべて虫が教えてくれました。

 子供向けの本で死体や共食いのシーンはタブーなのだけれど、『つちはんみょう』で僕は虫の生きざまをそのまま描きたかったし、生き残った一匹が切なくも力強く生きる姿を描きたかった。その前に描いた『しでむし』という絵本は、ヨツボシモンシデムシがネズミの死体を喰いあさって成長するという物語です。そんなグロテスクな内容の絵本なのですが、偕成社は描かせてくれた。当時の担当編集者は「ノンタン」や、先日亡くなったかこさとしさんの担当をされていた方です。私はこの編集者から絵本作りに必要なたくさんのことを教えてもらいました。