話題書『老いの思考法』が版を重ねる、霊長類学者・山極寿一さんが少子高齢社会における、新たな学びの復権を説く。
(※本稿は、前掲書から一部抜粋したものです)
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学校を起点に「関係人口」を増やすユニークな試み
少子高齢化が進んで地方が過疎化する日本において、関係人口をいかに増やすかは喫緊に取り組むべき課題です。
でも具体的にどうやって、関わる人々を地域に迎え入れ、地縁ネットワークに参加してもらうのか? 具体的にイメージしづらい方もいると思うので、一つ参考になる事例からお伝えしましょう。
先日、鹿児島の姶良(あいら)市という場所に3日間行ってきました。そこでは「ふつうの学校をつくる」プロジェクトが立ち上がり、廃校になった小学校をリノベーションして私立の学校をつくる試みが進行しています。
「ふつうの学校ってなんですか?」と関係者に訊いたら、昭和の学校をイメージしていると言います。「学校は、地域という大きな生態系の一部であり、ハブである」という視点から、「学びもその土地ならではの豊かな風土に根付いた、顔の見える小さな関係のなかで紡ぎなおす」ことを掲げています。食材も地元のネットワークを駆使して新鮮なものを使い、豊かな食事を提供します。しかも学校の裏にはホタルが群舞する森もある。
私が子どものころの「ふつうの」小学校のまわりでは、道で遊べて、山や森に行って子どもたちが自由に遊べたものでした。このプロジェクトは2026年の開校を目指しているそうですが、地域と密接に結びついたこうした学びの場を再生する意義は大きいと言えるでしょう。
いまこうした試みが全国各地で起こっていて、私はあちこち見て回っているのですが、学びの場を一次拠点にして、その考えに共感した子育て世代の人たちが集まってくれば、過疎は消えます。子どもがくれば親たちも来て、さまざまな店が開き、協働する活動も生まれ、さまざまな産業も活性化する。
教育の場を一つの資産にしながら、子どもを中心にさまざまな人を巻き込んでいくのです。
高齢者と子どもをかかわらせようと、ただ老人ホームと保育園をくっつけている施設がありますが、だいぶズレている愚かな施策だと思います。異なる世代のあいだをつなぐのは「自然」なんです。自然を媒介にして両者をつながないと、ただ物理的に一緒にして交流会だなんだといってもつながるわけがない。
なぜなら、自然であったり、地域のお祭りであったり、日々変化する複雑なものを媒介にしないと、子どもの知的好奇心の発露としての学びの場は発動することはないし、互いの協働作業も生まれないからです。

