まず間違いなく夏ドラマ最大の話題作『しあわせな結婚』の展開は早い。
五十歳まで独身主義を貫いてきた辣腕弁護士の原田幸太郎(阿部サダヲ)が、女(小雪)とBarで呑んでいるとき、結婚するつもりのない幸太郎に怒った女にふくらはぎを蹴られる。
何日後か、彼は倒れる。脚を蹴られて肺に飛んだ血栓が原因で生死をさまよった幸太郎は、病院のエレベーターで、高校の美術教師の鈴木ネルラ(松たか子)と乗り合わせ名刺交換する。
不思議な雰囲気を漂わせるネルラに興味を覚え、幸太郎はメッセージを送るが返信はなし。いよいよ明日は退院。ほぼ諦めてその旨を送信し、翌日に退院した。
外に出ると、ネルラが立っていた。間をとって彼女は、「来ました、お迎えに」と呟き、「あの……ウチに来ませんか」と続ける。予期せぬ出会いから、ネルラと幸太郎は電撃結婚する。
幸太郎は元々は検事、ヤメ検だ。冤罪事件を勝訴したことで、ワイドショーにも出演する人気弁護士だ。
ネルラの家は建物もお洒落だが、家族も絵に描いたような才能を持つ面々だ。
父の鈴木寛(段田安則)は国内最大の缶詰会社のオーナーだったが、ワンマン経営が祟り社を追われる。叔父の考(こう・岡部たかし)は政財界人に個人レッスンするゴルフ・コーチだ。弟のレオはアイドル・グループの衣装を手がける、東大に在籍のデザイナー兼スタイリストだ。
華麗なる一族だ。鈴木家は四階建てマンションに棲み、ネルラと幸太郎は二階が新居だ。ゴージャスそのものの一族だが、どこか不穏な気配がある。位牌が二つあったり。鈴木家ではレオが生まれたとき、母が亡くなったというが、ではもうひとつの位牌は?
何かある、この家は。普通なら少しずつ謎をチラ見せするところだが、第一話の後半で怪しい気配の正体はすぐわかる。ネルラの婚約者の画家が十五年前に階段から転落死。状況からネルラが容疑者だった。
警視庁捜査一課の黒川刑事(杉野遥亮)が、十五年前の事件を再捜査すると、ネルラ、幸太郎双方に通告してきたのだ。
五十歳になって結婚した気品ある聡明な妻は、殺人犯だったかもしれない。あまり笑顔を浮かべず、何を考えているか分からない美しい妻は事件の記憶に怯えていたのか。
スケール壮大、アッと驚く事件の数々。しかしドラマは年を重ねるごとに魅力を増している松たか子と、達者な阿部サダヲを中心に動く。松たか子の不安な表情と、気品あふれる会話と自然な笑いも、見応えたっぷりのドラマだ。
そして鈴木家が結束固く暮すあの家には、まだ何か〈秘密〉がある。その核心が明かされたとき、ネルラの顔に笑いが浮かぶ。
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『しあわせな結婚』
テレビ朝日 木 21:00~
https://www.tv-asahi.co.jp/shiawasena-kekkon/



