NHK朝ドラ「あんぱん」では、やなせたかしと作曲家・いずみたくとの出会いが描かれた。ライターの市岡ひかりさんは「自伝を読む限り、知り合うきっかけを作ったのは放送作家の永六輔だった。以後、どこか似ている二人は盟友と呼べるほどの深い関係になった」という――。

※文中敬称略
※8月7日以後のネタバレを含む可能性があります。

作曲家いずみたくの情熱的な人生

「いせたくやです! 芝居と音楽が大好きです!」――。

ADVERTISEMENT

連続テレビ小説『あんぱん』8月4日放送回では、やなせたかしの盟友である、作曲家いずみたくがモデルの「いせたくや」が登場した。演じるのは、連続ドラマ初出演となるMrs. GREEN APPLEの大森元貴だ。

写真=©Giada Papini Rampelotto/Europane/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ 2024年9月8日、NYファッション・ウィークに登場したMrs. GREEN APPLE。中央が大森元貴氏。 - 写真=©Giada Papini Rampelotto/Europane/ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ

初回登場時は、学ラン姿が初々しい18歳の演劇学校生という設定だ。5日の放送回では、のど自慢大会に挑むメイコ(演・原菜乃華)に歌唱指導しつつ、流暢なピアノ演奏も披露した。

いずみたくは「見上げてごらん夜の星を」など数々の名曲を世に生み出した、稀代のヒットメーカーとして知られている。やなせたかしとは「手のひらを太陽に」のほか、アンパンマンミュージカルの劇中歌など300曲近くを共に制作。交流は30年以上に及んだ。亡くなる直前まで作曲を続け、冒頭の『あんぱん』の台詞通り、史実上の彼も演劇と音楽にその生涯をささげた。

自伝によると、「知り合って好きになった女性と、すぐ結婚してしまう」と言う性格の持ち主で、プライベートでは5回の結婚を経験。学生時代に年上の劇団員との恋に破れ、初めての失恋を経験した際には、躊躇(ちゅうちょ)なく致死量の4倍の睡眠薬を口にするほど、恋にもまっすぐだったという。

そんないずみたくと、やなせたかしとの名コンビは、どのようにして生まれ、名曲「手のひらを太陽に」が誕生したのか。史実上の二人の本当の出会い、そして別れとは――。

やなせたかしと似ている幼少期

1970年に刊行された自伝『ドレミファ交遊録』(いずみたく著、朝日新聞社)によると、いずみは1930年、東京都・谷中で、東京中央電信局勤めの父と専業主婦の母の間に生まれた。